阪和線 運行管理システム更新前夜

 

はじめに

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現在の運行管理システムに変わり、はやくも6年余りが経ちましたーー。

 

 

JR西日本では、効率的に旅客への案内が行えるよう、駅の旅客案内装置(自動放送や電光掲示板の表示を生成している機械)は運行管理システムと連動するように設計されています。

運行管理システムでのりばを変更すれば、自動で案内放送や表示にも反映されるという、今となっては当たり前のシステムが当時は画期的でした。

 

両者は密接に関わり合っているため、運行管理システムが更新されると駅の案内放送や表示も同時に更新されます。その更新が阪和線で行われたのが2013年の夏でした。

 

つまり今の案内放送や表示は2013年まで存在しなかったのです。

 

当時は「違和感しかない」と評されていた新しい案内放送や表示はもはや日常となり、旧システムだった頃を知らなかったり、知っていても思い出そうとする方が難しいという方も多いのではないでしょうか。

 

この記事はそんな方向けの備忘録です。

 

 

yatatetsu.hatenablog.com

 

なぜこの記事を今更執筆したかというと、上記のまとめ記事を書くにあたり、いまや阪和線が旧システムだったころを知らない鉄道ファンが出始めてもおかしくないのではないかと感じたのが発端でした。

 

旧システムの放送は非常に原始的で、延命措置の傷跡が随所に残っていた見すぼらしい放送で、今の放送しか知らない方にとっては随分と安っぽく見えるに違いありません。

 

でもいまのSUNTRAS型放送を語る上で無くてはならない存在なのです。なぜなら

 

JR西日本が初めて導入した路線単位で統一された放送システム

だったからです。

 

現在、関西周辺のJR線では各線区ごとに駅放送のフォーマットが統一されており、距離にして200km離れている米原と姫路、両駅で同じ放送を聞くことができますよね。

でも当時は各駅ごとに異なる仕様の放送が使用されていたのが普通で、各線区で統一しだしたのはここ十数年の話です。

 

 

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運行管理システムと駅の旅客案内装置を紐付けして、遅延時などは運転整理をリアルタイムで反映して、旅客への案内も自動で行う。

そのためには各駅で案内できる内容がある程度統一されている必要があります。

 

阪和線の放送システムは、仕様を統一した放送を路線単位で導入した始めての放送システムだったのです。

 

3種類存在した放送

とはいえ、そういったシステムに手を出すのは初めてだったせいか、全駅で統一されていたわけではありませんでした。

阪和線旧システムの型は大きく分けて3種類存在しました。

 

A. 標準型

使用駅:天王寺、鶴ヶ丘、浅香、堺市三国ヶ丘、百舌鳥、鳳〜和歌山間各駅

 

いわゆる「阪和線旧システム」と呼称される放送です。JR九州の駅放送を担当されている方と同じ声優を起用していました。

男声放送も一応存在しましたが、のりばが2つしかない駅でしか流れない(3つ以上ある駅では女声放送のみ)という変な縛りがありました。

 

従来型の音質改善版

さらに細かく分類すると、一部の駅では音質が改善され、かつ一部の案内パーツが新録された音質改善版が使用されていました。

 

使用駅:鶴ヶ丘、三国ヶ丘和泉府中【のみ】

和泉府中は駅舎を橋上化した折に音質改善版に変わりました。

 

B. 少数派

使用駅:南田辺、長居、我孫子町、上野芝、津久野

 

いわゆる「永楽型」の声優を起用していた放送です。高架化工事が行われ駅が移設された3駅と、なぜか放送が更新された上野芝、津久野の計5駅限定の放送でした。

なお前者の3駅は詳細型で行き先を流せるのに対し、後者2駅では「鳳方面行き」のように簡易な案内しか流せませんでした。

 

JR西日本では2011年以降、各駅の放送を順次「黄色い点字ブロック」という言い回しに改めていましたが、

この5駅に関しては2013年にその役目を終えるまで、時代の流れに逆行し「黄色いまでお下がりください」の言い回しを守りきりました。

 

C. 旧々放送派

該当駅:美章園、杉本町

 

京阪神地区の旧々放送が残っていた駅も存在しました。どちらの駅も詳細な案内はできない簡易接近放送が導入されていました。

ちなみに“少数派”の各駅は最後まで「黄色い線」の言い回しでしたが、旧々放送派の各駅は「ホームの内側にお下がりください」を最後まで貫きました。

 

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このようにバラエティ豊かな案内放送が用いられていました。この記事では標準型の放送に焦点を置いて進めたいと思います。

 

標準型の放送文

標準型の放送で流れるのは

・接近放送

・出発放送

基本的にはこの2点だけです。ただし出発放送は待避設備がある駅で長時間停車する列車に対してのみ流れていました。

天王寺と鳳では停車中放送が、天王寺では駅名連呼も存在しましたが、一部駅の特殊な事例ですのでここでは省きます。

 

案内放送の放送文は次の通りです。

 

通常列車

(チャイム)

まもなく〇番線に、【種別】・【行き先】行きが、〇両で入ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。

足元の◯/△印、a番からb番で2列に並んでお待ちください。

この電車は途中…に停まります。

【駅名】までこの電車が先に着きます。

〇番線に電車が到着します。ご注意ください。

 

*先着案内が流れるのは以下の駅で特定の列車に対してのみ。

天王寺(普通、区間快速

堺市(普通、下りの区間快速

・鳳(上りの普通)

上り=天王寺行き。

 

放送例

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まもなく1番線に、区間快速日根野行きが4両で入ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。

足元の△印、1番から4番で、2列に並んでお待ちください。

この電車は途中、三国ヶ丘と、鳳から先は各駅に停まります。

1番線に電車が到着します。ご注意ください。

 

いまのSUNTRAS型放送のように接近予告放送にあたる放送がなかったため、すべての情報が接近放送に詰め込まれていました。

 

両数→乗車位置→停車駅→先着案内 の順に流す点なんかは今の放送と類似しており、興味深いです。

 

切り離しがある電車

切り離しがある電車では次の放送文が流れます。

 

(チャイム)

まもなく〇番線に、【種別】・【行き先】行きが、〇両で入ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。

この電車の前4両、【行き先①】行きは、足元の△印、1番から4番、

後ろ4両、【行き先②】行きは、足元の△印、5番から8番で、2列に並んでお待ちください。

〇番線に電車が到着します。ご注意ください。

 

放送例

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まもなく1番線に、関空紀州路快速関西空港/和歌山行きが8両で入ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。

この電車の前4両、関西空港行きは、足元の△印1番から4番、後ろ4両、和歌山行きは、足元の△印5番から8番で、2列に並んでお待ちください。

1番線に電車が到着します。ご注意ください。

  

切り離しがある電車では停車駅等の情報が一切合切カットされます。あまりに欠陥的な仕様だったため、さすがに次世代の放送には引き継がれませんでした。

 

該当したのはこのほか

 

関空快速 関西空港行き(後ろ4両日根野まで)

・快速 和歌山行き(後ろ4両日根野まで)

・快速 御坊行き(後ろ4両日根野まで)

・快速 紀伊田辺行き(後ろ4両和歌山まで)

 

などの列車が当てはまりました。

 

当駅で切り離しを行う電車

もっと割り切った放送になるのはこちら。欠陥品どころの話ではありません。

 

まもなく〇番線に、電車が入ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。

【方面】方4両は【行き先①】行き、【方面】方4両は【行き先②】行きとなります。

 

放送例

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まもなく2番線に電車が入ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。

和歌山方4両は関西空港行き、天王寺方4両は和歌山行きとなります。

  

切り離しを行う当該駅ではなんと、種別も停車駅もまったく流れない放送が採用されていたのです。今のJR西日本の放送への熱意からは考えられない放送ですが、実際問題存在しました。

 

今ではまったく使われていない「〇〇方(かた)」という表現にも注目です。

阪和線では「天王寺方」、「和歌山方」、「紀三井寺方」の3種類が存在しました。中でも和歌山駅限定の「紀三井寺方」は、1日3回しか流れないレアパーツでした。

 

当駅で連結を行う電車

まもなく〇番線に、【種別】・【行き先】行きが入ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。

到着後、【方面】方に、電車4両をつなぎます。(しばらくお待ちください)

 

*「しばらくお待ちください」は後から入ってくる編成の接近時に流れる。

 

放送例

 

まもなく1番線に快速・天王寺行きが入ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。

到着後、紀三井寺方に電車4両をつなぎます。

 

こちらもなかなかムチャクチャな放送文です。かろうじて種別は流していますが、停車駅や乗車位置などの情報はカットされています。

 

たしかに面影はありますが……

たしかに面影はありますが、今の放送とは別次元の代物としか思えません。

 

それもそのはずで、阪和線のシステムからSUNTRASへ受け継がれたのは路線単位で同じ放送を導入するという考え方のみで、現在のSUNTRAS型放送の元になったのは大阪駅で採用されていたオリジナル放送でした。

 

ただまったくもって今の放送に通ずるところがないわけでもないんです。

 

今のSUNTRAS型放送に通ずる接近予告放送

阪和線旧システムでは基本的に予告放送は流さず、接近放送で停車駅諸々の案内を行なっていました。ただし和歌山駅では、くろしお号の接近時に限り接近予告放送が存在したのです。

 

内容としてはこのような感じです。

 

ご案内いたします。本日も、JR西日本をご利用いただきまして、ありがとうございます。

8時8分発、特急くろしお6号・新大阪行きは、このホーム1番線から発車します。

「くろしおA」と表示した黄色の各号車標のところでお待ちください。

この電車は途中、和泉砂川日根野和泉府中天王寺、西九条に停まります。

自由席は2号車、3号車、指定席は1号車、4号車から6号車、グリーン車は1号車です。

  

これがくろしお号が到着する10, 5分前に流れていました。

 

一方で、同様の案内をいまの阪和線新システムに合わせるとこうなります。

 

8時8分発、特急くろしお6号・新大阪行きは、1番のりばから発車します。

列車は6両で到着します。前から1号車、2号車の順で、一番後ろが6号車です。自由席は2号車、3号車です。

停車駅は和泉砂川日根野和泉府中天王寺、西九条です。

「くろしおA」と表示した黄色の各号車標のところでお待ちください。

  

非常に内容が似通っています。

 

ところで。

SUNTRAS型放送の接近予告放送って、どことなく違和感がありませんか?

 

次にそののりばから発車する電車の案内をしているのに「普通・天王寺行きは2番のりばから発車します」。

次に発車する電車の案内をするのであれば、「次に2番のりばにまいります電車は普通・天王寺行きです」でいいはずです。

 

なぜこんな他人行儀な文面になっているのか、もしかしたらこの和歌山駅の接近予告放送が謎を解いてくれるかもしれません。

 

 

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現在のシステムの放送では先発列車が発車しないと次発列車の案内を行いませんが、阪和線旧システムは放送を開始する規定の時間になれば、先発の電車がまだホームに止まっていようが御構い無しに次列車の案内を流していました。

 

1番のりばでは、紀州路快速がまだ止まっているのに「特急くろしおx号新大阪行きはこのホーム、1番線から発車します」と流している場面もよくありました。

 

先発列車が止まっている場面でも流れることがある放送であれば、あの文面になるのは非常に納得がいきます。

 

現在のSUNTRAS型放送は、和歌山駅の接近予告放送をそのまま流用したうえで、意図を汲み取らず先発列車が出発するまで次列車の案内はしないよう変更してしまったがために、あのような不自然な放送文になってしまったのだとしたら、とても納得がいきませんか?

 

先着案内の怪

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阪和線旧システムにも先着案内を流す機能はありました。

 

ただし。

先述の通り、流すことができたのは本当に限られた

天王寺駅

堺市駅(上下線)

・鳳駅(天王寺行きのみ)

の3駅のみ。痛すぎる限定条件です。

*上りでは普通電車に対してのみ、下りでは普通のほか区間快速に対しても付帯していました。

 

流せる内容は2パターンあり、

快速停車駅まで先着する場合は「〇〇までこの電車が先に着きます」

次の快速停車駅までに通過待ちをする場合は「〇〇にはあとの△△が先に着きます」

このどちらかが流れるというものでした。

 

普通・鳳行きを例にすると、鳳までどの快速にも抜かれない場合は

「鳳までこの電車が先に着きます」

となりますし、鶴ヶ丘で区間快速の通過待ちをするは場合は

堺市にはあとの区間快速が先に着きます」

と流れるわけです。

 

この放送は該当の普通もしくは区間快速が先発にならないと流れなかったため、天王寺や鳳では出発の1分ほど前に流れる停車中放送が存在しました。

 

ぶつ切り音声パーツ

8時 / 14分発 / 快速 / わかやま↑ / 行きは / 1番のりばから / 発車します。

電車は / 8両で / 到着します。/ 足元 / △印 / 1番から / 8番で / 2列に並んでお待ちください。

停車駅は / 和泉砂川→ / 紀伊→ / 六十谷→ / です。

 

SUNTRAS型放送と言えば妙に多すぎる区切りも特徴の一つです。

寝台特急が全盛期だった時代から運用されている放送システムであり、北は札幌、南は西鹿児島(現在の鹿児島中央駅)まで非常に広大な範囲の駅名案内を持ち合わせていないといけなかったため、最低限の聞き取りやすさだけを残して同じ音声パーツを使いまわせるように編集点を多くした結果、あのような放送になっています。

 

ふつう自動放送と言うのは、後に続く文脈に合わせて助詞を変えたパーツをいくつも収録する必要があります。

 

普通・関西空港行きは」1番のりばから発車します。

関西空港行きの」停車駅は…

本日は行き先を関西空港行きに」変更しております。

まもなく普通・関西空港行きが」6両でまいります。

前4両は関西空港行き」、後ろ4両は関西空港行きです」

1番のりばに到着の電車は、折り返し、普通・関西空港行きとなります」

 

このように、語尾により微妙に違う音声パーツを無限に録音しなければいけないわけです。ところがこの手法を用いれば

 

普通・関西空港行きは1番のりばから発車します。

関西空港行きの停車駅は…

本日は行き先を関西空港行きに変更しております。

まもなく普通・関西空港行きが6両でまいります。

前4両は関西空港行き 、後ろ4両は関西空港行きです。

1番のりばに到着の電車は、折り返し、普通・関西空港行きとなります。

 

すべて同じ「関西空港」という音声パーツを使いまわすことができ、音声を用意する手間が省けるほか、容量も小さくすることができます。

 

この原型ともいえる雑な編集点でつないだ放送が阪和線旧システムにも見られました。

 

 

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この電車は途中、熊取までの各駅と、東岸和田和泉府中、鳳、三国ヶ丘堺市天王寺新今宮、大正、弁天町、西九条、と、福島、から先は各駅に停まります。

 

 

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この電車の前、4両、御坊、行きは、足元の△印、1番から、4番、

後ろ、4両、日根野、行きは、足元の△印、5番から、8番で、2列に並んでお待ちください。

 

 

www.youtube.com

 

この電車は、関西空港、まで停まりませんのでご注意ください。

 

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さすが元となっただけあります。途中で区切ってパーツ数を少なくする手法はこの時点から採用されていたわけです。

 

これが大成するのは2003年に導入されたJR神戸・京都・琵琶湖線運行管理システムのSUNTRAS型放送になるわけですが、それはまた別のお話。

 

当駅止まりではなく○○駅止まり

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現在のSUNTRAS型放送では、その駅までの運転となる電車を一括りに「当駅止まり」と表現しています。ところが阪和線旧システムでは事情が異なりました。

 

 

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天王寺駅までなら「天王寺止まり」、日根野までなら「日根野止まり」といった具合で、具体的にその駅の名前を案内していました。

 

放送でも同様です。

 

天王寺どまり

鳳止まり

東岸和田止まり

熊取止まり

日根野止まり

和泉砂川止まり

 

このような放送が聞けました。

 

ただ「○○駅止まり」が用意されていない駅もあったのです。

そのような駅では

 

和泉府中止まり

和泉砂川止まり

 

「この電車は折り返し、回送電車となります」

という風に言い換えてなんとか放送していました。ある意味で頭が良い逃げ方です。

 

旧システムの最期

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運行管理システムの切り替えに伴い旧放送は役目を終えたわけですが、その切り替えは非常にあっさりとしたものでした。

 

まずは画像のように、日中に各駅2時間ほど試験稼働を行い致命的な不具合がないかを検証します。

 

この2時間の試験稼働が終われば余命わずかです。

遅くとも3か月以内、早ければ数週間のうち。ある日突然新放送に切り替わって旧放送は終わりです。

 

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今や誰も語らないであろう阪和線旧システムの放送についてまとめておきました。

 

不安定で頼りない放送でしたが、彼がいたからこそ今の運行管理システムがあり、今のSUNTRAS型放送があるわけですから、いくらこんなミスをしようと下手にバカにはできませんね。

 

1993年から2013年までの20年間、お疲れさまでした。

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