敦賀駅の合成音声放送 と 誤りだらけの英語放送

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敦賀駅含め北陸地区の主要駅では、長らく「東海道型放送」と呼ばれる自動放送が用いられてきました。

 

これが2017年のダイヤ改正前後に次々と廃止され、肉声を介さない完全な機械合成音声の放送に切り替わりました。

 

 

 

新しい機械合成音声の放送は英語案内にもバッチリ対応しており、なおかつ遅れの案内もできるという優れものです。

もともと導入されていたものと比べて進化しているのですから拒む理由がありません。

 

そして私は基本的に合成音声には賛成の立場です。肉声を合成して案内文を生成する従来の方式では、いつか声優さんの引退という形で避けられない放送更新を迎えます。

機械合成音声であれば半永久的に同じ声を用いることができますし、案内の変更もパソコンでちょっと編集すれば済むためすぐに反映できます。

 

なので敦賀駅はじめ北陸地区の新放送に機械合成音声が採用された件に関しては好意的に捉えています。

ただ一点、あまりにもひどすぎる英語放送を除いては、です。

 

 

実際の放送

まずは視聴してみましょう

まずは敦賀駅で流れている英語放送がどんなものかを実際に聞いていただきたいと思います。

 

これまでの英語学習経験を生かして本気で取り組んでみてください。

 

 

 

どうでしょう、まず第一に聞き取りやすかったでしょうか

 

敦賀駅の英語自動放送には大きく分けて3つの問題点があります。

 

1.固有名詞の読み方問題

機械合成音声を使う上で避けられない問題が固有名詞の読ませ方に関連する問題です。機械合成音声は英語の読みには特化していても、日本語特有の発音が含まれる固有名詞(列車名や駅名)の発音には向いていません。

 

たとえば日本語特有の表現として「ドーム前」のように「〇〇前」という駅名がありますが、「前」を適切に読み上げることができる合成音声はこれまで聞いたことがありません。"mae"と打つと「メェ」、"ma eh"とう当てば「マァエェ」のように不自然な読み方になります。

 

こればっかりは現在開発されている合成音声では対応できない問題ですので、鉄道やバスなど日本語の地名を読み上げることが想定された合成音声が登場するまでは仕方ありません。

 

2.読ませ方に起因する問題

そして作成したパーツは文として意味を持たせるわけですから、それに応じた抑揚を意識して音声パーツを作成しなければいけません。適切な個所にアクセントを置き、それ以外の部分は強勢をなくすという処理が必要です。

 

これらの調教が不十分なので

The local train

deepaaarrrrting at 時刻

bound for ヒガスィメィズゥル

のように駅名の発音が変だったり、本来強く読まなくても良い単語が一番強く読まれていたりします。

 

 

また文と文の間に間を置くという基本的なことができていません。イントネーションが不自然な放送文が間髪置かず続くわけですから地獄のリスニングです。

 

英語放送というのは日本語がわからない全ての観光客のための案内放送であるにも関わらず、よほど英語に慣れていないと意味を推測できないのは、あまりにおざなりな仕事といえます。

 

3.放送文に起因する問題

もう一つが放送の文章そのものに起因する問題です。

 

英語に精通した方が手を加えたと思えないくらいひどい放送文が流れています。

これまでに導入されている自動放送からそれっぽい表現を抜き出してきて、適当に並べただけとしか思えない拙い放送文です。

 

特急列車の接近予告放送

 

次に6番のりばに入ります列車は、17:15発、特急サンダーバード34号・大阪行きです。

列車は9両で到着します。自由席は5号車、6号車、7号車、指定席は1号車から4号車、8号車から12号車、グリーン席は1号車です。

「特急サンダーバード」と表示した、赤色の号車番号札のところでお待ちください。

この列車は京都・新大阪の順に停まります。

特急サンダーバード34号・大阪行きは、現在定刻で運転しております。

 

The Limited Express Thunder Bird 34 departing at 17:15 bound for Osaka will be arriving at track 6.

This train consists of 12 cars. Cars 5, 6, and 7 are non-reserved. Cars 1 through 4, cars 8 through 12 are reserved. Cars 1 is the Green Car for passengers holding Green Car seat reservation.

Please wait at the boarding location of tags, which are indicated as "the Limited Express Thunder Bird" of the red.

This train will be stopping at Kyoto and Shin-Osaka.

The Limited Express Thunder Bird 34 bound for Osaka will be leaving.

This train is now operating on schedule.

 

折り返しではない列車では、旧放送にはなかった「定刻で運転しています」という案内が流れます。

また特急の吊り下げ札に関する英語での案内放送が追加されるなど、大きく案内面は進歩していることがわかります。しかし、です。

 

太赤字で示した単数/複数のミスなんて気にならない太字の文の違和感。

前後の文も含めて訳すと「この電車は京都と新大阪に停まります。特急サンダーバード34号大阪行きは出発いたします。この電車は時刻表通り運転しています」と流しています。……はたして太字の文は何を言いたいのでしょう。

 

何か追加したかった案内があり、結局断念したのに削除し損ねてこれだけ残ってしまったとかでしょうか。

 

新快速(湖西線経由)の停車中放送

 

5番のりばに停車中の列車は、16:23発、新快速・湖西線経由 近江舞子まで各駅停車 網干行きです。

 

The train at track 5 is the Special Rapid Service, the local train bound for Omi-Maiko via Kosei Line, bound for Aboshi will be leaving at 16:23.

 

1. 「近江舞子まで各駅停車」が「普通・近江舞子行き」になってしまっている

2. "is" と "will be leaving" で二重に動詞が入ってしまっている

 

もはやひどいとかいうレベルではありません。思いついた単語を羅列しただけの中学生の英作文よろしく、文法もへったくれもない放送に仕上がっています。

 

特に太字の部分。これがまあひどい。

湖西線経由 普通 近江舞子行きの新快速、網干行き」としか訳しようがありません。何が言いたいのかさっぱり不明です。

 

改善するとすれば次のような放送文にするのが良いでしょうか。

 

The train at track 5 is the Special Rapid Service bound for Aboshi via Kosei Line, which stops at every station until Omi-Maiko. The departure time is 16:23.

 

近江舞子まで各駅に停まる新快速・湖西線経由網干行き」という表現にしましょう。関係代名詞でいじるだけです。

また発車時刻は別の文にするのがいいでしょう。全部日本語通り一文にまとめる必要はありません。

 

もし発車時刻も一文で流すなら、イギリスの鉄道の駅放送よろしく

 

The train at track 5 is the 16:23 Special Rapid Service bound for Aboshi via Kosei Line, which stops at every station until Omi-Maiko.

 

のようにまとめる形に変更するのがいいかと思います。

 

新快速(米原経由)の接近予告放送

 

湖西線経由よりももっと“ヤバイ”のが米原経由新快速の放送です。

 

次に7番のりばに入ります列車は、17:49発、新快速・米原経由 米原まで各駅停車 播州赤穂行きです。

列車は4両で到着します。この列車は新疋田近江塩津余呉の順に停まります。

 

The Special Rapid Service, the local train bound for Maibara via Maibara, departing at 17:49 bound for Banshu-Ako will be arriving at track 7. 

This train consists of 4 cars. This train will be stopping at Shinhikida, Omi-Shiotsu, and Yogo.

 

米原経由 普通・米原行きの新快速」になってしまっています。「米原経由米原行きの普通」でも十分におかしいのにここまでくると何でもありです。

 

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余談。北陸地区の新表示では英語のスクロール表示も流れるようになりました。ところが自動放送の文面を参照しているのか、その英文も同様にひどい文面です。

 

The Local train bound for Maibara via Maibara is  4 cars long.

 

Next  The Local train bound for Maibara via Maibara will stop at  SHin-Hikida , Omi-Shiotsu , Yogo  station.

 

米原経由の新快速は電光掲示板の英語スクロールでも「普通 米原経由 米原行き」に成り下がっています。

 

何をどうしたら米原経由の新快速が米原経由米原行き普通になるのか、非常に疑問です。

 

はたして校正が行われたのか疑うくらいの水準

この英語放送を作成するにあたりネイティブチェックが入ったのか、入ってなかったとしても英語に精通した方による校正が行われたのか、甚だ疑問です。まあおそらく行われていないのでしょう。

 

同じJR西日本でも大阪支社がこれまでに導入してきた多言語自動放送は、それはもう素晴らしいものばかりでした。

 

関西の主要線区に導入されているSUNTRAS型放送では、列車の遅れ時分に留まらず行き先や両数の変更まで英語放送で流せるよう対応させ、「多言語詳細型放送とはこういうものだ」という手本を見せつけました。

 

京都周辺の観光客が多い駅でも英語放送は当たり前のように導入されています。嵯峨嵐山駅YouTube)や梅小路京都西駅YouTube)ではイギリスの駅放送チックな、

稲荷駅YouTube)ではアメリカの地下鉄さながらの垢抜けた表現を採用し、英語放送とはこうあるべきという模範解答を導入し続けてきました。

 

多言語放送において常に最先端を追い求め、手本のような英語放送を導入できた会社、それがJR西日本だったはずです。支社が変わるだけでこれほどに落ちてしまうというのが残念でなりません。

 

合成音声放送の良いところは冒頭でも挙げたように「パソコン上ですぐに修正を行うことができる」点です。今からでも遅くはありません。きちんとしたネイティブチェックを受けて再出発することを希望します。

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