JR西日本 SUNTRAS型放送の分類と進化体系

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この記事では、JR西日本が関西の主要路線に導入している、運行管理システム連動の案内放送システム(通称「SUNTRAS型放送」)の分類と進化体系を、運行管理システムの変化に合わせて追っています。

 

 

1993/初代 阪和線運行管理システム 導入

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SUNTRAS型放送は運行管理システムと連動した旅客案内システムの一部であるため、元を辿るときには、機能面(運行管理システム)と音声面(案内放送)の変化、両方を見る必要があります。

 

機能面で原型になったのは、1993年に阪和線に導入された初代阪和線運行管理システム「SUNTRAS」と連動した案内放送です。

*本論とは関係ありませんが、実はJR西日本が運行管理システムに「SUNTRAS」という愛称を付けたのは、後にも先にもこの運行管理システムのみ。これ以外の運行管理システムには、愛称は付けられていません。

 

運行管理システムとは、列車の運行状況に応じて、信号の切り替えやポイントの制御などを自動で行うシステムです。万が一列車が遅れた場合にも、在線状況から遅延を少なくする輸送計画を作成し、それに合わせて進路を制御するなどを、機械が勝手にやってくれます。

さらに運行管理システムと合わせて導入される旅客案内装置により、各駅の案内設備も自動で制御されます。のりばが変われば変更後ののりばが、行き先が変われば変更後の行き先が、駅員の操作なしで旅客に案内されます。

 

今では都市圏の鉄道路線ですっかり当たり前となったこのシステムを、JR西日本が初めて導入したのが阪和線でした。

 

 

これだけを聞くと画期的なシステムですよね。でも現実は実に非情です。

 

 

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この初代阪和線運行管理システムはかなりの曲者なのです。何度もシステムダウンを起こし、幾度となく阪和線のダイヤを乱した経歴を持ちます。

運行を管理するシステムが原因でダイヤが乱れるという、あまりに本末転倒な状況。しかもそれが一度や二度ではないというのが、阪和線を「遅延」の代名詞とさせた要因の1つと言えます。

 

また列車の運行管理は正常に行っていたとしても、案内放送や表示はちょっと遅れれば頻繁に誤案内を流す始末でした。関空紀州路快速が鶴ヶ丘に停まると言い出したり、12両の関空/紀州路快速を入線させようとしたり、無茶苦茶です。

 

こんな様子で、まったくもって全面的に信用できるようなシステムではなかったのですが、こういった黎明期の不具合から対策がなされてきたからこそ、現在のシステムは安定して動いているわけですから、あまり無下にできないのかもしれませんね。

 

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次に、初代阪和線運行管理システムの放送案内を見ていきたいと思います。

運行管理システムと連動した旅客案内システムも、このときJR西日本ではじめて導入されました。これが機能面で見たときに、SUNTRAS型放送の原形となった放送です。いうなれば元祖SUNTRAS型放送といったところでしょうか。

 

このような形態の案内システムが導入されたことで、具体的に何が変わったかと言いますと……

 

 

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これまで駅の案内放送は、放送で流す内容を、ダイヤに合わせて各駅で設定する必要がありました。何列車はどこ行きで、何列車はどこそこに停まって……という設定を駅で行わなければいけなかったのです。

 

駅ごとに自由な案内文を作成できるメリットがある一方、遅延時には運休した列車を手動で消す必要があるなど、デメリットも多いのです。

 

 

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これが運行管理システム連動となったことで、列車の情報は運転指令で一元管理されることになりました。

この指令から送信される列車情報をもとに、自動で案内放送が生成されるため、駅では案内放送を設定する必要はなくなりました。負担は大幅に軽減されたといえます。

 

 

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なお、阪和線初代システムには英語放送が装備されておらず、代わりに電光掲示板で英語のスクロール表示が流れるようになっていました。

これはこれで、写真のようになかなか無茶苦茶な英語案内を流すこともあったのですが、それはまた別のお話。

 

 

声やシステムの品質は違えど、列車情報を指令で一元管理し、それを基に案内放送が自動で生成されるという仕組み現在のSUNTRAS型放送にも取り入れられており、まさしくシステム面での原形といえます

 

では音声面の原形はどこから来たのか、続いて見ていきましょう。

 

2001/大阪駅天王寺駅のオリジナル放送

 

天王寺駅環状線大和路線ホームや、大阪駅に導入されていたオリジナルの案内放送が、音声面で元となった放送です。村山明氏、よしいけいこ氏が担当されています。

 

どちらも2001年ごろに導入された、運行管理システム連動の放送とは全く関係がない案内放送です。

 

声の主は同じでも案内文は全く異なることが分かります。特に乗車位置と停車駅を流す順番が違うのは大きいですね。初代阪和線運行管理システムの放送に倣ったのでしょう。

 

この放送が2駅でしか使用されていないオリジナル放送から、JR西日本を代表する駅放送に大抜擢されたのは翌年のことでした。

 

2002/JR神戸・京都・琵琶湖線運行管理システム 導入

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2002年、琵琶湖線JR京都線JR神戸線草津西明石間に「JR京都・神戸線運行管理システム」が導入されます。

複々線を活かして高密度運転を行う区間の運行管理を自動化するのが目的であり、単に複線区間である西明石以西、草津以東はこのとき、運行管理システムの対象外でした。

 

これに付随して、運行管理システムが管理する線区では、運行管理システムに連動した案内放送も導入されました。元となったのは大阪駅のオリジナル放送であり、村山明氏、よしいけいこ氏が起用されています。

 

自動放送の導入が第一目的では決してなく、運行管理システムと合わせて導入されたという過程から、この駅放送を正式に定義するのであれば「JR神戸・京都・琵琶湖線の運行管理システムと連動した放送システム」となるわけですが、

あまりに長ったらしいので、このブログではSUNTRAS型放送本線システムと呼称します。

 

 

音声面について詳しくみていきましょう。

 

この放送にはめちゃくちゃ細かく音声パーツを区切るという特徴があります。初見だと違和感を覚えること間違いなし。ことあるごとにタンマが入るのです。

これは文節や助詞で音声パーツを区切ることで、同じ音声パーツを様々な案内に使いまわせるようにするのが目的です。

 

駅名を放送に組み込むときは、文脈に合わせて助詞や付属語が変わるため、それに合わせて複数の音声パーツを用意する必要があります。

 

「姫路」「姫路です」「姫路から」「姫路までの」
「姫路行き」「姫路行きは」「姫路行きが」「姫路行きの」「姫路行きです」「姫路行きとなります」

「大阪」「大阪です」「大阪から」「大阪までの」
「大阪行き」「大阪行きは」「大阪行きが」「大阪行きの」「大阪行きです」「大阪行きとなります」

米原」「米原です」「米原から」「米原までの」
米原行き」「米原行きは」「米原行きが」「米原行きの」「米原行きとなります」

 

たった3駅を放送で案内するためだけに、これだけ多彩な音声データが必要なのです。しかし駅名の後に区切りを入れることで、

 

「姫路」「大阪」「米原
「です」「から」「までの」「行き」「行きは」「行きが」「行きの」「行きとなります」

 

たったこれだけ録音すればよいことになります。これだと手軽にいろんな案内が用意できますよね。

 

 

 

また列車の遅れや運休、運転変更(のりばや行き先の変更)についても、自動で案内する機能が備わっています。

さらに英語放送まで標準装備。2002年に導入された放送システムなのに、すでに外国人旅行客の案内まで考えられているのです。

 

駅員がいないホームでも、自動放送で全部事足りるように。この駅放送を発端として、異常なまでに詳しく流せる案内放送は、その後のJR西日本のスタンダードとなりました。

 

2007/本線システムの運用線区拡大

2006年、JR京都・神戸線運行管理システムの運用範囲が、北陸線 近江塩津山陽線 上郡駅赤穂線 備前福河駅間に拡大されます。

 

これに伴い2007年のダイヤ改正にあわせて、新たに運用範囲となった駅でSUNTRAS型放送本線システムの自動放送の使用が開始となりました。

*導入された線区内の全駅で使用され始めたわけではありません。導入駅について、詳しくは↓の記事からどうぞ

 

 

2008/大阪環状・大和路線運行管理システム 先行導入

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おおさか東線久宝寺〜放出間が開業。開業した区間では「大阪環状・大和路線運行管理システム」が、先行して稼働開始しました。

 

これに合わせておおさか東線の各駅では、運行管理システム連動の駅放送が先行して使用開始となりました。放送の詳細については後述します。

 

 

 

この項では接近メロディについて少し触れておきます。おおさか東線ではこの放送が導入された当初、現在流れている環状線の接近メロディとは異なるオリジナルの接近メロディを使用していました。

 

翌年に運行管理システムが運用を拡大した折に接近メロディが改められたのですが、

各駅の放送装置には音源が残っているため、簡易接近放送に切り替えると今でも当時の接近メロディが流れることがあります。

 

何か旅客案内装置に不具合が生じてシステム連動の放送が切られると、このメロディが流れるのです。機会があればぜひ狙ってみてください。

 

2009/大阪環状・大和路線運行管理システム 正式稼働開始

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前年おおさか東線に先行導入された大阪環状・大和路線運行管理システムが、大阪環状線大和路線ゆめ咲線でも運用を開始しました。

 

 

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この運行管理システムで注目したいのが、各駅に抑止表示器を整備した点です。

 

ダイヤ乱れ時などに、列車間隔の調整や駅間で長時間止まってしまう事態を避けるのが目的で導入した設備です。

指令から逐一列車に無線で連絡を入れなくても、駅の抑止表示機に指示を送信すればそれで運行管理ができますので、より細かい調整が可能となりました。この抑止表示機は、これ以降に導入された各運行管理システムでも実装されています。

 

 

 

平城山など一部の駅を除き、システム連動の駅放送も同時に使用開始です。この放送をこのブログではSUNTRAS型放送環状システムと呼称します。

 

 

先に紹介した本線システムの放送との最大の違いは、放送の担当声優です。JR西日本では初であり、そしておそらく最後となる津田英治氏、向山佳比子氏を起用した駅放送となっています。

 

さらに、列車間隔が極端に短い環状線でもスムーズに案内ができるよう、放送自体の読み上げスピードが速くなっています

また、本線システムの放送で見られる「姫路、行きは」のような、文節の区切りや助詞の手前にタンマを入れる構造は採用されず、一連で読み上げる音声パーツが多いのも特徴です。

 

 

 

ちなみに英語での接近放送は、このシステムから標準装備されるようになりました。

 

2011/JR宝塚・東西・学研都市線運行管理システム 導入

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環状線に続いて2011年、JR東西線を介して結ばれている学研都市線JR宝塚線を含めた左記3路線に、「JR宝塚・東西・学研都市線運行管理システム」が導入されます。

 

これに伴い新三田~祝園間の駅(一部除く)には、運行管理システム連動の案内放送が導入されました。これを SUNTRAS型放送東西システムと呼称することにします。

この駅放送は、根幹自体は直通運転するJR神戸線JR京都線と同じ本線システムの放送ですが、細部が少しだけ改良されています。具体的な違いはこの記事で紹介しているので省きますね。

 

2013/阪和線運行管理システムの更新

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1993年に導入されてから実に20年間、阪和線の運行管理を支え、時に邪魔してきた阪和線運行管理システムが更新となりました。

 

ということは当然、運行管理システムと深くかかわっている駅放送などの案内設備も更新の時を迎えることになります。

 

 

 

阪和線新型運行管理システム連動の駅自動放送。SUNTRAS型放送阪和線システムと呼称します。

 

2002年の本線システムから引き継がれてきた「異常なまでに詳しい英語放送」は、空港連絡路線という特異性を持つ阪和線でその才能を十分に発揮し、外国人利用客の案内に大いに活躍しています。

 

2015/接近メロディ変更《1》

 

聴覚が不自由な方でも聴き取りやすいよう、1つのメロディに複数の音階を入れることを目的とし、本線システムと環状システムの接近メロディが変更されました。

 

なおJR京都線島本駅に限り、ご当地メロディを採用している関係で新接近メロディの採用は見送られています。

 

2016/関西空港線PRC更新、関西空港駅にSUNTRAS型放送が導入

 

阪和線に遅れること3年、今度は関西空港線のPRC(Programmed Route Control;自動進路制御装置)が更新されます。

 

PRCはあくまで進路制御を行うシステムに過ぎないので、運行管理システムとは似て非なるものです。ですがこの更新に合わせて、関西空港駅ではSUNTRAS型放送が導入されました。一応阪和線システムのSUNTRAS型放送が基になっているため、特に阪和線システムと区別せず扱いますね。

 

運行管理システムが導入されていない線区の駅にSUNTRAS型放送が導入される、言い換えると運行管理システムとは連動せず動作するSUNTRAS型放送が導入されたのは、大阪駅天王寺駅のオリジナル放送が導入されて以来と言うことになりますので、実に15年ぶりに例外となる放送が出てきたことになります。

 

2017/接近メロディ変更《2》

 

2度目となる接近メロディ変更。残る阪和線システム、東西システムでも接近メロディの更新が行われ、SUNTRAS型放送を活用する全システムで接近メロディの更新が済んだことになります。

 

ただしJR宝塚線宝塚駅に限り接近メロディの更新が見送られ、2020年現在でも未更新のままとなっています。更新が見送られた理由として、放送機器の都合であると注釈がつけられていましたが、原因は不明です。

 

2018/湖西線運行管理システム 導入

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2018年には湖西線の山科~近江塩津間に湖西線新型運行管理システム」が導入されました。これに伴って湖西線の一部駅に導入された放送をSUNTRAS型放送湖西線システムと呼称します。

 

放送自体は本線システムの血を引くものです。ただし音声の再生速度が変わって(x0.8→x1.0)おり、少し声のトーンが高くなっています。

 

列車の運行管理を行う範囲としては湖西線全体をカバーしていますが、駅自動放送が導入されたのは山科~近江今津間の一部駅のみであり、近江中庄以北の特に利用者が少ない区間では簡易な放送設備が使用されています。

 

 

 

湖西線新システムでは、これまで肉声を録音した放送にこだわっていたJR西日本が、ついに機械合成音声を用いた放送を活用し始めました

 

ただし機械合成放送は、運行情報や、既存のマナー啓発放送では対応できない文言(新型コロナウイルス感染症対策の協力依頼など)を流す点に絞っており、接近放送などはこれまで通り村山明氏、よしいけいこ氏の声が使用されています。

 

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さて、ここまではSUNTRAS型放送の予定を振り返ってきました。ここからはSUNTRAS型放送の未来を見ていきましょう。

 

2024/本線システム(西明石草津間) 更新「予定」

2002年に導入された本線システムの西明石草津間が、2024年までに更新される予定となっています。

 

これに伴い、2024年までに西明石草津間の各駅の駅放送が更新される可能性が出てきました。

 

 

 

 

中国語での案内も取り入れて3か国語放送となった駅放送。完全に機械合成音声に移行した駅放送。この20年の間に様々な駅放送が、JR西日本の管内でも導入されてきました。

 

20年以上もスタンダードとなっているSUNTRAS型放送がどう変わっていくのか、今後に注目ですね。

 

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以上、SUNTRAS型放送のこれまでの流れを、特に運行管理システムの更新に焦点を当てて振り返ってきました。

 

 

 

さらにこの記事も読めば、SUNTRAS型放送を隅から隅まで知れること間違いなし。ご一緒にどうぞ。

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