今川駅 自動放送概要(2016,11,11)

数ある近鉄の駅でも今川をご存知の方は相当の物好きでしょう、特に放送までとなるとなかなか重症であろうと見受けます。


今川駅は南大阪線の一大ターミナル、大阪阿部野橋駅から3駅の所にある退避設備を持つ高架駅で、利用者数も一日6000人前後と閑散としています。

日中はすべての普通がこの駅で準急の退避を行うため、今川以南の利用者からは何かしら「通過待ちをする駅」と認知されております。
私の地元でのイメージもおおよそそんなところでありまして。


この何の変哲も無い退避設備を持った駅に当時の近鉄はたいへん興味があった様で、詳細型放送が導入されています。

…いや、もとい。


「詳細型放送に限りなく近い簡易放送」が導入されています。

まずは動画でその問題の放送をお聞きください。



詳しいのか詳しく無いのかよくわからない放送ばかり。

あべの橋行きでは「あべの橋行きがまいります」と流すのに対し、下りの電車はすべて「電車がまいります」で片付けられる…不思議ですねえ。

しかも駅名連呼の後には種別も行き先も流さないのに「◯◯まで各駅に停まります」とのみ流し、しかし発車放送時にはきちんと種別も行き先も流れる…。
ますます謎は深まるばかりでしょう。


この謎を今回は紐解いて行こうと思います。

まずはこの放送の特徴から。

存在しない番線

今川、今川でございます。
あべの橋まで各駅に停まります。

3番線を電車が通過いたします。
しばらくお待ちください。


この支離滅裂な到着放送で突如として湧き出した「3番線」。

実は今川駅、「2面4線」と文字だけなら標準的な設備の駅ながら、ホームがあるのは待避線の外側。

そのため「2番線」と「3番線」は運行管理上の番線のみで、案内上は欠番となっているのですが、この時にだけ案内の一環として登場します。


もちろんのこと、こちらはかなり特殊な例でして、他路線では「電車が通過します。しばらくおまちください。」としか流れません。

異なる仕様の謎、詳細型放送と簡易放送の違い

詳細型放送と簡易放送との違いは言わずとその情報量ですが、ではその情報量の違いはどこに起因するのかと言いますと、そもそもの放送の作られ方が基になって大きな差が生じます。

たとえば簡易放送で大阪阿部野橋駅の下り電車で考えられるパターンをすべて書き出すと、

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各駅停車だけで60パターンを越えます。

ここに種別の数だけ倍増していくわけで、

②準急 ③区間急行 ④急行 ⑤快速急行 ⑥特急 ⑦特急「さくらライナー」 ⑧特急「青の交響曲

=最大480パターン

当然河内天美行きの特急なぞ設定されないとして関係ない物を省いて行ったとしても、それでも100パターンは越えます。確実に声優さんの喉をつぶしにかかってます。

でもこれが技術が発達するまでは平然と行われてたんですって。

これが超原始的な「簡易放送」というわれるものです。

予め決められた一通りのパターンのみしか流せないため、増やそうと思えば思うほどこの長い文章が増えていくことになるんだとか。恐ろしや…。


もちろんながら遅延や臨時停車にはめっぽう弱いうえ、詳しくすればするほどシステムの負担も増えるといういいとこなしの放送ではありますが、逆に考えれば

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面倒であればこうしてしまえばいいわけですよね?(*´ω`*)

という事情があり、全国に「電車が接近することだけを流す」放送が多いわけです。


対する詳細型放送。

こちらはどういう仕組みかと言いますと、予め文節ごとぐらいで区切られた短い音声パーツをひたすらパズルのように組み合わせて1つの放送にするというもの。

同じく大阪阿部野橋駅の物で例を出しますと、


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このように、実際にパーツがかなり細かく分かれていますので、これを順に組み合わせますと


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六田行きの無駄な電車もお手の物。

ATOSやSUNTRASをはじめとした全国各地の詳細型放送で使用されている方式で、実際に大阪阿部野橋駅でも同様の方式が取られています。


簡易放送が100を超えるパターンを作るのに対し、こちらでは半分の50パーツのみで100を超えるパターンが作れ、何なら両数まで付け加えることができるのです。

(なお実物では併結列車にも対応しているためパーツの量が非常に膨大で、かつ停車駅や号車番号なども細かくパーツ分けされているため、その数は優に500を超えるほど。
ダイヤ改正の度に組み合わせを更新しているとか…ご苦労様です。)


このように放送というもの自体が作られています。

後者のタイプならともかく、前者のタイプですとひたすらパーツが必要になって来ますので、たいていどこかが省略されます。

ここで今川駅の放送を振り返ってみましょう。


上りの電車はあべの橋行き固定なので「あべの橋行きがまいります」。両数も言わない。

下りの電車は行き先が多種に行き渡るため「電車がまいります」のみ。

回送電車の放送は営業列車のフォーマットを一切守らない一回録り。

そして「橿原神宮前行き各駅停車」のみ、駅名連呼まで録り直されているのは…

全て「パーツを組み換えることができない簡易放送を使用しているから」で理由として成り立つんですよね…。


「というか」。そもそもの疑問です。

なぜに4打点チャイムが流れるの…?

そもそも近鉄の詳細型放送導入駅では、放送の前にチャイムはいっさい流れないのです。(名古屋線のように通過メロディーを流している例は除きます)

これを踏まえたうえでこちらをご覧ください。



仮にも「簡易接近放送」とはいえ通過か停車かは識別できるという代物ですが、こちらが応用できたとすると同じように「電車がまいります」としか流せない放送を、同じような音源を使用して制作することが可能です。

そこに接近放送と別システムで、ある地点を過ぎて数秒後に時限爆弾式で流れる駅名連呼と、発車信号に連動して流れる発車放送をつければお手軽詳細型放送の完成です。
「○番線を電車が通過します」は通過線側の信号が開通してる時だけ流すようにすればそれで間に合います。


これだと「なぜ接近放送が一手しか流せないのか」、それなのに「なぜあとの放送は放送分の選択が可能なのか」がすべて片付きまして…

あくまで仮説ですが、これがかなり有力な説に思えて仕方ないのです。

たしかに流す内容は詳細なのですが、それ以外の部分がどうにも簡易放送としか思えない節しか見当たらず…。


結局は中の人のみぞ知る、と言うところに落ち着くのでしょうけど、いったいどういう仕組みで流しているのか大変気になる駅です。


本文中では取り上げていませんが、発車放送は河内天美行きで見られるように通過待ちの有無にかかわらず「お待たせいたしました」から始まるようになっています。

この「駅名連呼と到着放送が流れるか」と「発車放送が流れるか」は完全に運要素でして、必ずどちらかが流れるようにはなっているものの、何度も通い詰める余裕もなく…少し不完全ですが一つの行き先に一パターンのみとさせていただきました。



ちなみにTwitterの知識人の方々にご意見を集ったところ、「今川型放送」として新しく部門を作るべきとのありがたい指針をいただきました。

唯一無二の形態にされようとしている彼は、どのような経緯で中途半端に詳細化されたのか…。
謎を明かす次いで、来年の五位堂公開に簡易放送枠で持ってきてほしいなぁ……と願望も残しておきます。
   

以上、今川駅の放送をまとめさせていただきました。

それでは~!

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