併結列車の停車駅案内に関する問題

併結列車の案内と言うのはどこの会社でも悩みの種といえるようです。三者三様に違う案内手法を用いて案内が行われており、これを比較するだけでも熱く語ることができます。

 

その中でも今回取り上げるのが併結列車の停車駅案内に関する問題です。

この議題に気付かせてくれたのが他でもなく、

 

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空港連絡列車という“はじめまして”の旅客を運ぶ重要な役割を担っていながら、とても運行形態が初心者向けではないことで有名な関空紀州路快速でございます。

 

今回はこの列車に関する停車駅案内について、持論を語ります。

 

 

駅放送と車内放送の違い

始めに駅で流される放送と車内で流される放送をお聞き比べください。

文字起こしでは日本語と英語で対訳になるように改行を挟んでみました。なお基本的に英語放送は日本語放送文と相違ない内容です。

 

駅放送

 関西空港行きの停車駅は堺市三国ヶ丘、鳳、和泉府中東岸和田、熊取、日根野りんくうタウンです。

 和歌山行きの日根野からの停車駅は和歌山までの各駅です。

   This train is bound for Kansai-Airport: this train will be stopping at Sakaishi, Mikunigaoka, Otori, Izumi-Fuchu, Higashi-Kishiwada, Kumatori, Hineno, and Rinku-town.

   This train is bound for Wakayama: after leaving Hineno, this train will be stopping at every station until Wakayama.

 

駅放送では行き先の順番に従って関空快速の停車駅を最後まで流してしまい、そのあとに「和歌山行きの停車駅は」で紀州路快速の停車駅を流しています。

 

車内放送

 

 途中日根野で切りはなします。

(中略)

 停まります駅は堺市三国ヶ丘、鳳、和泉府中東岸和田、熊取、日根野です。

 日根野を出ますと関空快速関西空港行きはりんくうタウンに、紀州路快速・御坊行きは各駅に停まります。

   This train will be uncoupled at Hineno.

(中略)

   We will be stopping at Sakaishi, Mikunigaoka, Otori, Izumi-Fuchu, Higashi-Kishiwada, Kumatori, and Hineno stations.

   After leaving Hineno, the Kansai-Airport Rapid Service will be stopping at Rinku-town; and the Kishuji Rapid Service will be stopping at every station.

 

車内放送では最初に「日根野で切りはなす」と言い切っています。まず最大の違いはここでしょう。

そのあとの停車駅案内も日根野でいったん止めて行き先別に案内することで、途中で切り離すことを強調しています。

 

分かりやすいのはどちらか

ここで浮かんでしまったのがはたしてどちらの案内の方が適しているのかと言う議題です。方や駅という流す時間に制限がある場面、もう一方は車内放送であるため特定の旅客に丁寧に解説する必要がある放送ですが、本質的にどちらが分かりやすいかを探るうえでここでは同列に扱います。

 

切離しを行う列車の停車駅案内について、行き先別に区切って流してしまうのか、切り離し駅で区切って別々に流すべきなのか。

 

2つの視点から考えてみました。

 

1.放送文自体の長さ

1つ目の視点は案内文自体の長さです。関空紀州路快速の場合で比較してみましょう。停車駅数が同じ天王寺場面での日本語放送で比べると、

駅放送(天王寺駅):約21秒
車内放送(天王寺出発後*):約26秒

*…「途中、日根野で切り離しいたします」から「紀州路快速・和歌山行きは各駅に停まります」までを通しで計算。なお「お乗り間違いのないようにご注意ください」という放送文は含まない。

案内の違いによって5秒も変わります。5秒と言うのは短いようですが、秒単位で設計される案内放送においてはかなり大きな違いと言えます。

 

とはいえ、さすがに関空紀州路快速の放送を駅と車内で比べたとて、そもそも声優が違うため完璧な比較対象とはしがたいところ。というわけで次のような音声を作成してみました。

 

 

後述しますが、こちらは同じ放送文を架空鉄道の地名にあてはめて模したものになります。

私個人の考え方ですが、案内放送を考えるうえではほとんど土地勘がない人になり切るのが大切だと考えております。昔妄想していた架空鉄道を用いることで、投票していただく皆様にも土地勘がない人を疑似体験していただいて投票できるようにしています。

 

この放送文で比較すると、

パターン1:約21秒
パターン2:約16秒

なんとこちらでも5秒の違いがありました。ではこの5秒がどこから来たかと言いますと、

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答えは簡単。「この電車は○○で切り離しを行います」という文章の長さぶん長くなっていただけでした。

 

この結果から停車駅を案内している部分に限って言えば、行き先別に流しても切り離し駅で区切ってもコンマ数秒異なるだけで、おおよその長さ自体は同じだったということが分かります。 

 

2.内容のわかりやすさ

もう1つの視点として、内容が分かりやすいのはどちらかという調査を行いました。調査は2つの項目に分けて行いました。

 

a) 停車駅の案内を行き先ごとに一括で流すのと、切り離す駅で区切って流すのではどちらの方が分かりやすいのか

b) 切り離しを先に宣言するのとしないのではどちらの方が分かりやすいか

 

調査については

 

 

十八番のTwitterアンケートでご意見頂戴してみました。先ほどご紹介しました関空紀州路快速の車内放送と駅放送を架空鉄道の地名で置き換えた音声になります。

 

パターン1は車内放送と同様、停車駅案内は切り離し駅でいったん切って行き先別に流す形式を採用した場合の音声です。

パターン2は行き先別に停車駅を列挙したものです。関空紀州路快速では駅放送と同様の流し方ですね。

 

結果は次のようになりました。

 

 

パターン1の方がわかりやすいという結果に。

 

補足としてもう1つのアンケートも掲載しておきます。

 

  

パターン1は

・切りはなすことを先に宣言する
・停車駅案内は切り離し駅でいったん切る

このようにしました。関空紀州路快速の車内放送と全く同じ放送文にしています。

 

パターン2は先ほどと変えていません。

 

切りはなすことを明示するか否かでどれだけわかりやすさに差が出るか、と言うものです。結果は次のようになりました。

 

 

こちらも同じくパターン1(関空紀州路快速の車内放送に寄せたもの)が勝るという形になりました。

 

終わりに

切離しが絡む列車専用に設計されている関空紀州路快速の車内放送は、探れば探るほどよく考えられている設計だということが分かりました。

 

・切りはなすことを先に宣言する

・停車駅案内は切り離し駅でいったん切る

この2点については他線区の併結列車であっても必ず有効活用できる案内技術だといえると思います。ぜひともほかの併結列車にも、そして可能であれば駅放送にも広めてほしいところです。

 

閑話休題

ところで。

大阪環状線の駅放送の英語案内は、実は中学1年生でもわかるくらいのとんでもない誤案内をしでかしているのです。

 

This train is bound for Kansai-Airport: this train will be stopping at Sakaishi, Mikunigaoka, Otori, Izumi-Fuchu, Higashi-Kishiwada, Kumatori, Hineno, and Rinku-town.

This train is bound for Wakayama: after leaving Hineno, this train will be stopping at every station until Wakayama.

 

自動放送が途中で手のひらを返しているのにお気づきになられましたでしょうか。

 

This train is bound for Kansai-Airport:(この電車は関西空港行きです)
this train will be stopping at Sakaishi, Mikunigaoka, Otori, Izumi-Fuchu, Higashi-Kishiwada, Kumatori, Hineno, and Rinku-town.

This train is bound for Wakayama: (この電車は和歌山行きです)
after leaving Hineno, this train will be stopping at every station until Wakayama.

 

どっち行きやねんという。

まあ途中で分かれて両方に行くんですけど。

 

同じ構文を引き継ぐのであれば、たとえば"The section of this train bound for Kansai-Airport will be stopping at ..."にするなど改善してほしく思います。

 

誤乗防止を担うはずの自動放送が、一部分だけを聞くと誤乗しても仕方ないようなご案内をしているという小話でした。

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