日本の夏の災害といえば台風。毎年のように死者を出しているにもかかわらず、いまだ日本の社会は学ばずに、台風が来てもいつも通りに過ごそうとしています。
そのしわ寄せを食らうのはいつもインフラ、特に交通機関です。強風が原因なのに遅延・減便すれば「金払ってるんだぞ」、危険だからと止めたらやれ「最後まで運転しろ」、運転して事故でも起こせば「こんな雨風の中、なぜ動かした」。八方ふさがりです。
数年前までの関西では――そして今もそのほかの地域では――台風が来てもぎりぎりまで運転し、結果的に、まだ利用者が多く残留した状態で終日運休を余儀なくされ、旅客が係員に詰め寄るといった光景ももはや風物詩でしょう。
そういった混乱や理不尽なクレームを根本的になくすため、今から4年前の夏、JR西日本が新しい取り組みを始めたのは記憶に新しいはずです。
「順次列車の運転を取り止め、◯時以降は全ての列車の運転を終日取り止めます」
予報などから暴風雨が始まる時刻を予想し、運転できない気象状況になる時間までにすべての路線で運転を取りやめる「計画運休」、「予告運休」です。
それまでのJR西日本では、ムリヤリ運転してしまったことで告知なく運休が発生してしまったり、駅と駅の間や、代替交通手段がない駅で長時間停車するということが多々発生していました。
もちろん台風が来ていて止まることが分かっているのに利用する方の自己責任でもありますが、交通手段があると確約されている限り、社会的に外出が迫られる場合もあることを考慮する必要があります。
そしてそう言った方が一定数いる以上、中途半端な運休は駅や電車内といった現場での混乱を招きます。
そういった混乱を根本からなくそうという試みがこれです。段階としては
①前日の夕方にはホームページや駅で運休の予定と当日の最終列車を掲載
②運休の2時間程度前から減便しはじめ
③告知した最終列車を最後にきっぱり運転しない
という形で、まず前日の段階で運転できないことを周知徹底。当日は、万が一台風が早く来ても対応できるよう、早めに運転本数を減らしはじめ、台風が上陸するころにはすべての運転を見合わせる、といった具合です。
この計画運休で肝となるのは「いつから運転しないか」を「前日に」、かつ「明確に」告知することです。
こちらはJR西日本が今回の台風24号接近に際し、前日の15時にホームページに掲載した運転計画です。はっきりと何時から止まるか、そして台風通過後も再開が困難である旨を明記しています。お手本としか言いようがない告知文です。
前日の段階で止まることがわかっていれば予定が変えやすいですし、そもそも外出しないという選択も取ることができます。企業や学校も「その時間に止まるのなら」と終業を繰り上げたり、休業・休校にしたりすることも可能です。
今回の台風21号、24号では関西の鉄道会社、全社が計画運休に踏み切りましたが、JR西日本、南海、京阪の各社が前日から「◯時を境に運転しない」という形で告知したのに対し、
安全以上に大事なものはない
この計画運休において大事なのは失敗を恐れない勇気です。たとえ的が外れても同じことをし続けることで、信頼は確立されます。
JR西日本も当初はかなり大きな批判を受けました。「運転する気がないなら鉄道会社をやめろ」なんてバッシングは当たり前だった時期もありました。でも今はどうでしょう、「JR西日本の災害に対する向き合い方は素晴らしい」と称賛がなされるほどです。
たとえ批判を食らっても安全を第一に信念を曲げない。公共交通機関である以前に、大量の旅客の命を預かる鉄道会社の使命です。
理想としては、たとえば台風に備えて大々的に運休を告知し、結果的に台風がそれて被害がなかった場合に「あれだけ大騒ぎしてたのに被害がなくてよかったね」で笑ってすますことですが、残念ながら日本の社会はそう生易しくできていません。
今回の計画運休でも当然のように「もう1時間くらいは運転しても事故が起きなかったのではないか」という声もちらほら見受けられます。ほざけ馬鹿、結果論を言ってんじゃねえと。
今回はたまたま何も起きなかっただけで、将来的に何もない保証は一切ありません。単に危機管理能力が低く、旅客どころか社員の安全すら確保できないだけともいえます。
運転するのが偉いわけでも、運転しないのが偉いわけでもありません。危険があれば止める、当たり前のことをしてほしいだけです。
今回計画運休を実施された鉄道会社には、たとえ大きなバッシングを食らってもこの方針を曲げないでいただきたいところです。