'See it. Say it. Sorted' ― イギリス国内で超有名なキャッチコピーのお話

 

 

 

イギリスに行けば絶対に一度は見聞きするフレーズがあります。早ければ、入国してから数時間以内に、空港から街へ出る電車の中で聞くことになるかもしれません。それが「See it, say it, sorted.」という、たった5単語ながらイギリス国民の耳に深く刻まれたキャッチフレーズです。

 

See it, say it, sortedとは

See it, say it, sorted.は、英国交通警察およびイギリス国内全土の鉄道が、不審物や不審な行為を見かけた場合の行動を、啓発ポスターや啓発アナウンスで広く周知するときに用いられるキャッチフレーズです。

新聞を読んでも目に留まりますし、ラジオなどの公共放送でもこのメッセージは流れるので、これを見聞きせずイギリス国内で過ごすのは不可能に近いです。

 

よく耳にするのは次のような駅や車内のアナウンスだと思います。

 

youtu.be

 

This is a security message.

安全に関するお知らせです。

 

If you see something that doesn't look right, speak to staff or text the British Transport Police on 61016. 

何か不審なものや行為を見たら、係員にお知らせいただくか、61016番にSMSを送って英国交通警察までお知らせください。

 

We'll sort it.

私たちが対応します。

 

See it, say it, sorted.

見たら、言って、解決しましょう。

 

 

不審物や不審な行為を見かけた際の行動として、速やかに然るべきところへ通報することで、より安全な公共交通を作っていこうという意味のスローガンになります。また、旅客が自身で対応しようとせず、警察や係員に通報するのを推奨するニュアンスも込められています。

 

イギリス英語での「sort」の意味

sortは通常、分類(する)という意味を持つ単語ですが、イギリス英語では「問題に対処する」「課題を片づける」という意味を持ちます。要するに面倒ごとを何とかするという意味ですね。イギリスではsortをこっちの意味で使う方がよっぽど多いです。

 

I'll sort the problem.

「ウチがその問題何とかしとくわ」

 

↑イギリス滞在中たぶん週1回は使ってたフレーズ。

 

 

意味は同じですが、「get もの sorted」の形で用いることもできます。「get もの sorted」の方は通常の「sort」よりも固い印象があります。

 

See it, say it, sortedはなぜ広く知られたか

See it, say it, sortedというキャッチフレーズの浸透具合は半端ではなく、イギリス国民ならみんな知ってると言っても過言ではないくらいに広く周知されています。何なら見聞きする機会が多すぎて「この100年で一番聞き飽きするキャッチフレーズではないか?」という投げかけとともに新聞で取り上げられることもあったくらいです。

なので、その辺に居るイギリス人や、イギリスに長期間滞在したことがある人にこのフレーズを言えば必ず聞き覚えがあると答えるはずですし、知らないと言われたらその人が本当にイギリスに滞在したことがあるのか疑った方がいいです。そのレベルで現地ではみんな知ってるし、毎日聞きます。

 

いくら電車のアナウンスや車内の啓発ポスターで頻繁に見聞きするキャッチコピーだからと言って、これほど印象に残るフレーズは珍しいはずです。なぜここまで広く浸透したのでしょうか。そのヒントはリズムの気持ちよさにあります。

 

 

キャッチコピーや楽曲など、耳に残るフレーズを作るとき、英語では日本語よりも韻を重視する傾向にあります。これは、文化的な背景の違いが関係していると考えられます。

 

たとえば、一昔前の「詩」などの文学作品を日英で比べたとき、日本の詩は韻に関しては無頓着で、音の数についてはある程度のを意識しているものの、韻は意識しません。ではどこから“面白さ”を出すかと言えば、二重の意味を持った語彙や季語などから奥ゆかしさを出し、意味的な側面を重視する傾向にあります。

一方で英詩では、意味よりも音を重視しており、音の数に加えて読んだときの心地よさも意識するのが普通です。通常そのような使い方をしない語を、韻を踏むためにあえて誤用(に近い転用?)をしてある作品もあります。

 

これが現代でも日英の言語の隠れた違いとして残っていて、たとえば日本語の歌は韻よりも内容を重視している曲が多いのに対し、洋楽では韻やリズムを意識する傾向が強く、同じ音を単語を変えて繰り返す歌詞が多いです。アナ雪の「Let it go」のような子供向け楽曲ですら韻が意識されています。

キャッチコピーにもその傾向があり、日本語では何か隠された意味を想像させるようなフレーズが多いのに対し、英語では音の側面に注目し、内容より耳に残るかどうかを意識する傾向にあるのではないかと考えています。

 

See it, say it, sorted.は韻を踏みまくっていて

頭韻(各文の始めの音をそろえる)→はじめは全部sの音

脚韻(各文の終わりの音をそろえる)→終わりにiの母音+t/dと似た子音

さらに各文の母音の数は2つずつであり、リズムが完璧に計算されたキャッチコピーなのです。

 

韻を踏むキャッチコピー

イギリス国内を散策すると、韻を踏んだキャッチコピーがそこかしこで見つかります。

 

同じ鉄道の啓発ポスターであっても

 

 

 

NO ticket? NO excuse.

きっぷがない? 言い訳しない!

 

Seriously, it's only FAIR

we all pay the FARE

真面目な話、

みんながフェア(運賃)を払うのは

フェア(正しい)ことなのです。

 

 

 

右手、

See the GAP

not the APP

 

アップ(スマホアプリ)じゃなくて

ギャップ(電車とホームの隙間)を見ましょう

 

韻を踏むものばかりというわけではありませんが、韻を踏んでいる啓発メッセージが多いです。

 

 

広告では

 

 

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右端、

from an office twice a WEEK

to private places to SPEAK

 

ウィーク(1週間)に2回オフィスに行くより、

スピーク(会議)できる個室へ!

 


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下側、

Now, more than EVER,

become a police OFFICER.

Search Met Police CAREERs.

 

さあ今こそ

警察官になろう

メトロポリタン警察の仕事で検索

 

韻を踏むことを狙ったキャッチコピーがたまに見られます。

 

See it, say it, sortedのオマージュ

このSee it, say it, sortedはあまりに耳に残りやすく、しかも見聞きする頻度も高いため、オマージュ作品がたくさんあります。オマージュ作品では~~ it, ~~ it, ~~ it.の形で、itを文末にそろえた短い3文となっていることが多いです。

 

たとえばこれ。

 

 

 

Do more of what you love.

もっと好きなことをしよう。

 

Tube it. Bus it. Train it.

地下鉄で、バスで、電車で。

 

Download TfL Go to plan your journey.

お出かけの予定を決めるなら、TfL Goアプリをダウンロード

 

 

ほかには、感染症拡大防止のスローガンとして

 

 

Catch it, bin it, kill it.

飛沫を防止して、捨てて、殺菌しよう。

 

こんな具合で、たかだか公共交通機関のアナウンスだったものが、広告などにも引用されるようなキャッチコピーの1つとなりつつあります。

 

イギリスを訪れた際にはぜひ、このアナウンスに耳を傾けて、リズムの良さに舌鼓を打ってみてください。

 

それでは最後にもう一度!

 

If you see something that doesn't look right, speak to staff or text the British Transport Police on 61016. We'll sort it.

See it, say it, sorted!

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