「○○線直通、○○線内△△」の英語放送問題

 

本日の議題

イギリスに行って知りたかった表現が一つありまして、それが関東圏の直通運転で見聞きできる次のような表現を、現地のリアルな英語では何というかという問題です。

 

東急

この電車は副都心線西武線直通、Fライナー特急、小手指行きです。副都心線内はFライナー急行です。

 

東武

この電車は、地下鉄副都心線東急東横線みなとみらい線直通、Fライナー急行、元町中華街行きです。

和光市から先、地下鉄線内は急行、東急線みなとみらい線内は特急です。

 

西武

この電車は渋谷・横浜方面、副都心線東横線みなとみらい線直通の、Fライナー快速急行、元町中華街行きです。

小竹向原から先、副都心線内はFライナー急行運転です。

 

どこそこ線直通、何々駅から種別を変えてどこへ行く、のような、関東の複雑な直通運転網が生み出したわかりやすくする気が見られない運転方です。

 

ちなみに、実際の英語案内は↓の通りなのですが

 

東急

This train will merge and continue travelling as an F-Liner limited express on the Fukutoshin line and the Seibu line to Kotesashi.

 

この電車は副都心線西武線に直通し、Fライナー特急として小手指までまいります。

 

東武

This is the Fukutoshin subway line, the Tokyu Toyoko line, the Minato-Mirai line direct communication, the F-Liner express train bound for Motomachi Chukagai. 

 

この電車は副都心線東急東横線みなとみらい線直接連絡をとる、Fライナー急行の元町中華街行きです。

 

西武

This is the F-Liner rapid express train bound for Motomachi Chukagai. After Kotake-Mukaihara, this train will operate as an F-Liner express train.

 

この電車はFライナー急行、元町中華街行きです。小竹向原から先はFライナー急行として運転します。

 

今の種別が何かわかりづらく、しかも今どの路線を走っているかを省いた結果誤った案内になっている東急さん、

direct communicationという新しい形の日本語英語を作り出した、創意工夫点だけは評価したい東武さん、

いろんな難しい情報を省いた結果、さっぱりした西武さん。

 

この西武のような簡潔な案内が理想的だなと思いつつ、やはりオタクとしては案内放送に情報を詰め込みたいわけです。

 

というわけで、イギリスで習った表現を活用して、スマートかつ情報過多な案内放送を考案したいわけなのですが、

 

イギリスには種別という概念もなければ、直通運転という概念もない

\​(​^​o​^​)​/ナンテコッタイ

 

さっそく雲行きが怪しくなってきました。

 

 

 

そうなんです。イギリスの鉄道にはまず種別がありません。列車は全て何時何分発のどこそこ行きという案内で統一されていて、種別によって停車駅を分けることはありません。↑の画像を見ていただけるとわかるかと思いますが、案内されているのは出発時刻と行き先、そして停車駅をずらっと並べたものです。

停車駅についても、急行・準急・普通のような枠組みにあてはめてパターンダイヤで停車駅が決められているものの、時間帯によっては特別停車が盛んにおこなわれたり、急行なのに途中駅から各駅に停まる列車がランダムに設定されるなど、停車駅図表を作ったら何本横線を引かないといけないかわからないくらい自由に停車しやがります。

 

そして、直通運転という概念がありません。イギリスの鉄道は基本的に上下分離方式を採用していて、線路をどこの会社が保有しているという括りがないため、どこかの会社に直通するという言い方をしません。

言い換えれば、ある会社がメインで運転している線路(ある会社の“ナワバリ”)に、他社が平気で他社のブランド名のまま乗り入れていたりします。日本で例えると、副都心線内で西武のナワバリに向う電車が「東急の小手指行き電車です」と言い張って運転されているような世界線です。意味がわからないでしょ。私も頭が混乱しました。

どこそこ会社に直通するという言い回しは、自社の線路は自社で管理するという日本ならではの常識なわけです。

 

路線に直通するという表現は英語で何というのか

では、放送案内以外にナチュラルな英語表現を知ることができる場がないのかといえば、そういうわけでもありません。インターネットを活用すればいいのです。

このインターネットという広い世界には、現地でも絶対に通じる自然な英語で、かつすべての文章がフォーマルな表現であふれている場所があるんですよ。Wikipediaっていうんですけど。

 

直通運転について調べてみると、こういう表現がヒットします。

 

 

At Eastleigh, trains join the South West Main Line for onward travel to Basingstoke and London Waterloo. At Fareham trains join the West Coastway Line for onward travel to Portsmouth.

 

イーストリーにて、電車はサウス・ウェスト本線に乗り入れ、ベイジングストークからロンドン・ウォータルーへ向かう。フェアラムにて、電車はウェスト・コーストウェイ線に乗り入れポーツマスへ向かう。

 

https://en.wikipedia.org/wiki/Eastleigh%E2%80%93Fareham_line

 

 

 

Services operate along the Alton Line to Brookwood and join the South West Main Line towards London Waterloo.

 

列車はブルックウッドまでオルトン線で運転し、サウス・ウェスト本線へ乗り入れてロンドン・ウォータルーへ向かう。

 

https://en.wikipedia.org/wiki/Alton_railway_station

 

 

 

four of which continue to Clapham Junction and four to Richmond.

 

うち4本はクラファム・ジャンクションまで、4本はリッチモンドまで運転を続ける

 

https://en.wikipedia.org/wiki/North_London_line

 

 

 

most trains continuing on the North London line to and from Stratford.

 

大半の列車はノース・ロンドン線に乗り入れ、ストラトフォードまで/から運転

 

https://en.wikipedia.org/wiki/West_London_line

 

なるほど、○○線に直通すると言いたいだけならjoin、どこそこまで直通すると言いたければcontinueを使うようです。

 

行き先と経由地の案内

行き先や経由地の案内も千差万別です。

 

This train is for London Waterloo.

(行き先。forを使う例)

 

This is the London Overground service to Clapham Junction.

(行き先。toを使う例)

 

This is the Circle line train via High Street Kensington and Victoria.

(環状運転の電車で経由地のみを案内する例)

 

This is the train to Shenfield via Stratford.

(行き先と経由地を案内する例)

 

This train terminates at Peterbrough.

(行き先。terminateを使う例)

 

This is a Northern line train via Charing Cross terminating at Edgware.

(行き先でterminateを使いつつ経由地も案内する例)

 

不思議なことに、経由地を案内する場合はviaを使う点で全社共通しているものの、Northern lineのヤバい例を除いて、行き先案内で経由地を先に、行き先をその後に案内する例は一例も見つかりませんでした。

というか、ロンドンの鉄道は行き先案内したらほぼ必ず全区間の停車駅を一緒に読み上げるため、経由地を案内する必要がないんですよね。

 

一方、乗り換え案内では

services via London St Pancras International to South London, Kent and Sussex.

ロンドン・セントパンクラス国際駅経由のロンドン市南部、ケント地方・サセックス地方方面行き電車

という言い回しが見つかったため、どうやらvia 経由地 to 行先でもto 行先 via 経由地でも、どちらが先に来ても通じるようですが、総合的に見ると、via 経由地を先に出すのは少数派であり、避けた方がいいのかもしれません。

 

種別は知らん

今の種別がどう、この先種別がどう変わるみたいな案内は、イギリスには実例がないのでイギリスで得た知識だけでは解決できませんでした。なので、ここは自己流でなんとかします。

 

上項3つの知識を合体させる

上記で得た知識を使って、最初に提示した3つの放送文を組み替えてみます。上で紹介した表現は細下線で、わかりやすくするため勝手に増やした内容は太下線を入れています。

 

課題1

この電車は副都心線西武線直通、Fライナー特急、小手指行きです。副都心線内はFライナー急行です。

 

無難な訳例1 joinを使ってみたかっただけ編

This is a Tokyu Toyoko line F-Liner limited express train, which joins Fukutoshin line at Shibuya and then continues on the Seibu line to Kotesashi.

This train will travel as an F-Liner express train in the Fukutoshin line.

この電車は東急東横線のFライナー特急で、渋谷で副都心線に乗り入れたのち、西武線に直通し小手指までまいります。

副都心線内ではFライナー急行として運転します。

 

joinの使い勝手がそこそこ悪いことがわかりました。

 

無難な訳例2 continue on 路線名 to 行き先の使い勝手がいいと気づいて書いてみた現実的な例

This is a Tokyu Toyoko line F-Liner limited express via Shibuya continuing on the Fukutoshin and Seibu lines to Kotesashi.

This train will travel as an F-Liner express train in the Fukutoshin line.

この電車は渋谷方面行き東急東横線のFライナー特急で、副都心線西武線に直通し小手指までまいります。

副都心線内ではFライナー急行として運転します。

 

continueの使い勝手がjoinと比べてめちゃくちゃ良いことがわかりました。

主要駅方面と言いたくて仕方がないのはわかったので、実際にない文言を極力追加しないようにしましょう。

 

無難ではない訳例3 やっぱりjoinにも活躍の場を与えてあげたい

This is an F-Liner limited express train to Kotesashi.

This train is operating along the Tokyu Toyoko line to Shibuya, where this train will be joining the Fukutoshin line to Kotake Mukaihara, and then it will be continuing on the Seibu line to Kotesashi.

We will be travelling as an F-Liner express train in the Fukutoshin line.

この電車はFライナー特急、小手指行きです。

東急東横線で渋谷まで運転したのち、副都心線に乗り入れ小竹向原まで行き、そののち西武線に直通し小手指までまいります。

副都心線内ではFライナー急行として運転します。

 

関係副詞とか入れて無理やり全部盛りにしたパターン。ややこしいね。

 

課題2

この電車は、地下鉄副都心線東急東横線みなとみらい線直通、Fライナー急行、元町中華街行きです。

和光市から先、地下鉄線内は急行、東急線みなとみらい線内は特急です。

 

???「直通路線と種別変更の回数が多いんじゃ!」

と思ったら、今も急行なのに「地下鉄線内急行」と、あたかも種別変更を行うような案内を行なっています。普通なら

「急行元町中華街行き、(副都心線渋谷まで急行として運転し続けて)渋谷から東急線内は特急」

と案内しそうなものですが、東武さんの場合は現在の種別に関わらず

「急行元町中華街行き、副都心線内急行、東急線内特急」

のように、それぞれの社局でどの種別になるかを案内する主義のようです。これを踏まえて案内を組み立ててみましょう。

 

無難な訳例1 日本語放送になぞらえる

This is a Tobu line F-Liner express train to Motomachi Chukagai continuing on the Fukutoshin, Tokyu Toyoko and Minato Mirai lines.

It will be operating as an express train on the Fukutoshin line and a limited express train on the Tokyu Toyoko and Minatomirai lines.

この電車は、東武線Fライナー急行、元町中華街行き、副都心線東急東横線からみなとみらい線に直通します。

副都心線内は急行、東急東横線みなとみらい線内は特急として運転します。

 

一文目で直通路線を行き先の案内と合わせて提示し、二文目でそれぞれの線区内での種別を案内する形。日本語放送の流れをそのまま汲み取っています。この案内方だと、日本語放送にある「和光市から」が組み込みづらいのが残念。

 

無難な訳例2

This is an F-Liner express train to Motomachi Chukagai travelling along the Tobu, Fukutoshin, Tokyu Toyoko and Minato Mirai lines.

It will be operating as an express train on the Fukutoshin line and a limited express train on the Tokyu Toyoko and Minatomirai lines.

この電車は、東武線Fライナー急行、元町中華街行き、副都心線東急東横線からみなとみらい線に直通します。

副都心線内は急行、東急東横線みなとみらい線内は特急として運転します。

 

無難じゃない訳例 ぜんぶ詰め込もう

東武さんは日本語放送で直通路線をぜんぶ読み上げ、終点までの線区ごとの種別を案内しているところから考えるに、全区間の種別と経由路線を事細かく案内したそうに見えます。であれば、どうせなら種別変更と乗り入れ路線を同時に案内できないか考えてみます。

 

This is an F-Liner train terminating at Motomachi Chukagai. We are travelling on the Tobu line as an express train to Wakoshi, then will continue on the Fukutoshin line as an express train from Wakoshi to Shibuya, and on the Tokyu Toyoko and Minato Mirai lines as a limited express train from Shibuya to Motomachi Chukagai.

この電車は元町中華街行きFライナーです。東武線で小竹向原まで急行として運転したのち、小竹向原から渋谷までは副都心線で急行として、小竹向原から元町中華街までは東急東横線みなとみらい線で特急として運転します。

 

種別、路線名をすべて詰め込んだ案内を組み立てるとしたら、これが正解な気がします。ただとにかく長すぎる。情報が洪水起こしてます。マニア的には面白くても、現実的ではありませんね。

 

課題3

この電車は渋谷・横浜方面、副都心線東横線みなとみらい線直通の、Fライナー快速急行、元町中華街行きです。

小竹向原から先、副都心線内はFライナー急行運転です。

 

主要経由地を流しているのが賢すぎます。東急さんと東武さんにはぜひ見習っていただきたい。

 

訳例 Northern lineのヤバい行き先案内に活躍していただく

This is an F-Liner rapid express train via Shibuya and Yokohama terminating at Motomachi Chukagai, which is operating along the Fukutoshin, Tokyu Toyoko and Minato Mirai lines.

We will be travelling as an F-Liner express train from Kotake Mukaihara, where this train joins the Fukutoshin line.

この電車は、Fライナー快速急行、渋谷・横浜経由の元町中華街行き、副都心線東急東横線みなとみらい線経由で運転します。

この電車が副都心線に乗り入れる小竹向原からは、Fライナー急行となります。

 

>We will be travelling as an F-Liner express train from Kotake Mukaihara, where this train joins the Fukutoshin line.

>この電車が副都心線に乗り入れる小竹向原からは、Fライナー急行となります。

 

この部分があまり気に行っていませんが、小竹向原を「分かりやすい形で」「絶対に放送文に組み込むなら」これが最適解かなと。わかりやすくなければ↓みたいな訳もできます。

This train will be travelling as an F-Liner express train on its journey in the Fukutoshin line from Kotake Mukaihara.

この電車は、小竹向原から先の副都心線内において、Fライナー急行として運転します。

 

そもそも論

この副都心線を介した三社以上が関与する直通運転には、そもそも論として案内上の問題があって、それが直通先路線を案内する必要があるのか、という点です。経由路線ではなく、直通先の路線名についてです。

副都心線に入るまでの区間では「副都心線経由」まで案内して、そこからどこに行くかは副都心線内の車内放送に案内を任せればもっとスマートな案内をできるんじゃないかと思いませんか。

 

たとえば東武さんのこれ

この電車は、地下鉄副都心線東急東横線みなとみらい線直通、Fライナー急行、元町中華街行きです。

和光市から先、地下鉄線内は急行、東急線みなとみらい線内は特急です。

 

果たして東横線の向こうにあるみなとみらい線に直通するという情報が必要かは微妙です。

 

いっそ

 

この電車は、和光市渋谷・横浜方面、地下鉄副都心線経由Fライナー急行、元町中華街行きです。

和光市まで急行、和光市から副都心線に入り、渋谷まで急行、渋谷から元町中華街まで特急です。

 

この方がすっきりしません?

 

普通こういう案内は路線名で案内した方が分かりやすくなるはずなのですが、「副都心線」のような東京のどこを走っているのかイマイチわからない路線名と、「みなとみらい線」というそもそもどこの路線なのかピンとこない路線名が最後の直通先に来ているせいで、経由路線を案内するのが逆に案内を小難しくしているだけに感じます。

だったらみんな一度は耳にしたことがある「渋谷」「横浜」を経由地として案内した方が、わかりやすいのではないかと。「和光市」は方面として触れなくてもいいんですが、和光市から副都心線に入り種別が変わるという案内の前段として、触れておいた方が分かりやすいのではないかと思い挟んでいます。

 

これを踏まえて英語案内を組み立てると、当然こっちも先に挙げた訳例と比べてわかりやすくなります。

 

この電車は、和光市・渋谷・横浜方面、地下鉄副都心線経由Fライナー急行、元町中華街行きです。

和光市まで急行、和光市から副都心線に入り、渋谷まで急行、渋谷から元町中華街まで特急です。

Welcome on board this F-Liner express train via Wakoshi, Shibuya and Yokohama terminating at Motomachi Chukagai which will be travelling along the Fukutoshin line through the Central Tokyo.

This train is operating as an express train until it reaches Wakoshi, then will be continuing on the Fukutoshin line as an express train from Wakoshi to Shibuya, and continuing as a limited express train from Shibuya to Motomachi Chukagai.

 

英語放送は日本語案内の内容を組み込みつつ、副都心線の案内をちょっと変えて「副都心線経由で東京都心部を抜ける」という言い回しに変更しています。全文を見ると「和光市・渋谷・横浜方面、副都心線を経由して東京都心部を通り抜け、元町中華街まで向かう急行」という案内です。

で、種別変更の案内も(英語放送で停車駅を案内しないので)組み込みましたが、英語放送で全区間もしくは副都心線までの停車駅を読み上げるのであれば、種別変更も案内しなくていいんじゃないかなと思います。最低限副都心線まで案内して、あとは副都心線内の案内に投げましょう。

 

おわりに

最後まで書いてみてこの記事を振り返り、自分なりの感想を書いておきます。この三社直通の案内に関しては、追加できる情報が

・直通路線

・経由地

・直通先での種別

・二社目の直通先での種別

と色々あるんですが、一つでも情報を追加すると案内が煩雑になるので、前段でも書いた通り小難しいことは一切合切省いた西武さんの案内がやっぱり正解なんじゃないかなと思うところがあります。

 

直通路線は案内しない、経由地も触れない。唯一触れるのは直通先での種別(これも路線名には触れない)のみ。割り切っています。

内容を整理するのではなく、内容を減らす方向で考えた方がいい案件かもしれませんね。でも西武さんの放送に関して強いて言えば、主要な経由地くらいは触れてあげてほしいな。

Written by Yatatetsu ... All Rights Reserved