JR西日本が誇る駅構内案内放送システムSUNTRASが、多言語案内という点において優れているのは皆様ご存知のことと思います。
日本語で流した種別と行き先はもちろん、停車駅、両数、乗車位置、遅れ、到着までの所要時間、そしてのりばや行き先の変更まで、ありとあらゆる案内を英語まで流せる放送設備、それがSUNTRASの最も秀でているともいえる点でしょう。
そして文句を言いたい内容も非常に具体的で、今回のテーマはこちらです。
「多層建て列車の案内を何とかせんかい」
分割を行う電車の案内が意味不明すぎます。本当に下手すぎます。
それも多層建て列車が少ないのであればそれほど問題ではないと思いますが、そうではないのはご存知でしょう。
この問題をなぜ大きく取り上げたかといえば、空港への連絡列車が途中駅の切り離しを多用する運行形態だからです。
…それはまあ、車内放送であれだけ流しているのに聞かない方も悪いとは思いますけども。
まずは実際に流されている英文と、それに対応する和訳をご覧ください。
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①The Kansai-airport Rapid Service and the Kishuji Rapid Service departing at 12:43 bound for Kansai-airport will be leaving from track 1. ②This train will also go to Wakayama.
③It is composed of 8 cars. ④Boarding locations for cars bound for Kansai-airport are indicated by white triangles and numbers 1 through 4 and cars bound for Wakayama are indicated by white triangles and numbers 5 through 8. ⑤Please form 2 lines to board the train.
⑥This train is bound for Kansai-airport. ⑦This train will be stopping at Fukushima, Nishikujo, Bentencho, Taisho, Shin-Imamiya, Tennoji, Sakaishi, Mikunigaoka, Otori, Izumi-Fuchu, Higashi-Kishiwada, Kumatori, and Hineno.
⑧This train is bound for Wakayama. ⑨After leaving Hineno, this train will be stopping at every station until Wakayama.
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この違和感、というか「てめえ英語しゃべれ」感、伝わりますでしょうか。
早急に訂正すべきと考える案内文の問題点は、以下の2つです。
行き先が変わってしまっている
まずは行き先が「関西空港行き」となっている点から。
正直これはミスリードも甚だしいです。これでGOサインを出した担当者の神経を疑いたいレベルの失敗例です。
「この電車は関西空港行きです。和歌山へも(also)まいります」と言われて、誰が関西空港と和歌山行きの併結列車だと想像できるでしょうか。きっと誰しもが「関西空港を経て和歌山へも行く」と勘違いするでしょう。
大阪環状線の放送においては、ここが最大の問題点だと私は考えています。そして関空/紀州路快速で誤乗が減らない原因の1つに、「駅放送は関空経由和歌山行きと言っていたから乗っていて大丈夫なのだろう」と考える人が一定数いるから、ということも考えられます。
ともかくこれは早急に改善すべき問題点として挙げられるでしょう。
停車駅案内でも行き先が安定しない
⑥と⑧の文章にご注目ください。ここもなかなか度肝を抜いてくれます。
中学1年生でも”bound for”の意味さえ分かれば読解できるレベルの英文で、電車の行き先を好き勝手変えているのです。
この問題が発生するのは分割列車の停車駅案内だけではなく、実は持ち味ともいえるのりばなどの変更案内でも、同様にいったん行き先を言う不思議な放送文を流しています。
この前置きに何の意味があるのか、意図したことはわかります。「和歌山行きの(停車駅は)」とするための前置きを入れようとしたのでしょう。でも盛大に間違えているのです。
どういう組み立て方でこの誤りが生まれてしまったのか、非常に気になるところです。
それぞれの改善案
もちろん批判してばかりではありません。「こうしてみてはいかがか」という改善案も挙げてみましょう。
まず①、②の文章の「分割時の後に来る行き先がハブられてしまう問題」ですが、これは単純に行き先をandで列挙すれば解決できると思います。
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①The Kansai-airport Rapid Service and the Kishuji Rapid Service departing at 12:43 bound for Kansai-airport will be leaving from track 1. ②This train will also go to Wakayama.
↓
①The Kansai-airport Rapid Service and the Kishuji Rapid Service departing at 12:43 bound for Kansai-airport and Wakayama will be leaving from track 1.
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こうすることで行き先をよりわかりやすく案内できるほか、放送全体の長さも数秒短くできるため、非常にわずかですが、最後まで流しきれる確率の上昇が見込めます。
となるとこれが最も簡単な解決方法でしょう。
続いて停車駅の放送ですが、こちらは「この電車は~」の文が現状では何を言いたいかわからないため、根本的に大きく変更する必要があるでしょう。
改善するとすれば、次のように変更するのが望ましいと思われます。
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⑥This train is bound for Kansai-airport. ⑦This train will be stopping at Fukushima, Nishikujo, Bentencho, Taisho, Shin-Imamiya, Tennoji, Sakaishi, Mikunigaoka, Otori, Izumi-Fuchu, Higashi-Kishiwada, Kumatori, and Hineno.
⑧This train is bound for Wakayama. ⑨After leaving Hineno, this train will be stopping at every station until Wakayama.
⑧This train is bound for Wakayama. ⑨After leaving Hineno, this train will be stopping at every station until Wakayama.
↓
⑥The cars for(to) Kansai-airport will be stopping at Fukushima, Nishikujo, Bentencho, Taisho, Shin-Imamiya, Tennoji, Sakaishi, Mikunigaoka, Otori, Izumi-Fuchu, Higashi-Kishiwada, Kumatori, and Hineno.
⑧The cars for(to) Wakayama, after leaving Hineno, will be stopping at every station until Wakayama.
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現行のテンプレートに従って、パーツの加工のみで済ませる場合にふさわしい改善案を書いてみました。
“after leaving Hineno”の挿入位置が少し不自然ですが、動かすことができるなら文末にもっていくという形でいいのではないでしょうか。
他社の案内も参考にしてみる
現在では終夜運転のみに幅が狭められてしまいましたが、今も残る分割特急、「京都と難波行き特急」の放送です。
(1本目の放送が該当の電車のものです)
こちらの放送では、切り離し駅となる大和八木までは一括して流したうえで、「大和八木から先」とそれぞれの行き先を流す方法をとっています。
なんでもかんでも一文につなげてしまう近鉄の悪い癖が出て長い放送にはなっていますが、この案内を2文に区切ることで
停車駅は…桜井、大和八木です。
分かれる駅がわかりやすいだけでなく、どちらの行き先に乗る人にもわかりやすい案内ができそうです。
“This train will be stopping at ... Kumatori, and Hineno. After leaving Hineno, the train bound for Kansai-Airport will be stopping at Rinku-town. The train bound for Wakayama will be stopping at every station until Wakayama.”
近鉄の放送に慣れている自分としてはこちらの方が自然だと思うのですが、いかがでしょうか?
それ以外にも不満はあるといえばあるので、ついでに打ち明けさせていただきます。
せめて英語放送にだけでも追加できないものかと常々思います。
たとえば英語放送では停車駅に続いて、
“The Kishuji Rapid Service does not go to Kansai-airport. Passengers for Kansai-airport must take the front 4 cars.”
この2文を流すだけでもずいぶんと違うと思うのです。
英語放送を受け取る側はたいていが海外からの観光客ですから、海外の人にとって必要な情報は「紀州路快速は日根野から先各駅に停まる」という情報ではなく「紀州路快速では関西空港には行けない」という情報のはずです。
ですからそこを強調しようというのが狙いです。
日本の英語放送で常々疑問に思うのがここで、たいがいの放送は「日本語の内容をそのまま英語で流すだけ」なのです。
そうではなく、その放送を受け取る側は果たして誰なのか、そしてその立場にとって最適な情報は何なのかを考えてほしいと思います。
大阪環状線は訪日外国人が多数利用されるほか、日本を去る際に利用する最後の乗車駅にもなりえます。
ただでさえ運行形態が紛らわしい中、それを案内する放送がこの調子では本当にただの「いじわるクイズ」です。
最後に試練を突き付けてしまわないよう、放送は少しでもわかりやすくを心掛けてほしいものですね。
それでは~!