この記事では、JR西日本岡山駅、在来線ホームの駅自動放送についてまとめています。
岡山地区CTC連動放送の特徴
岡山駅を含め、岡山支社が管理する山陽本線の駅(一部除く)では、列車集中制御装置、通称「CTC」に連動した詳細型放送が使用されています。現在の放送は、2016年に同線区にCTCが導入された折に導入された放送となります。
このCTC連動の駅放送システムは、JR西日本で初めて導入された、合成音声(HOYA社の「ReadSpeaker」)を使用した詳細型駅自動放送です。
これまで自動アナウンスは、声優さんが吹き込んだ肉声を、文節単位で細かい音片(以下、音声パーツと書きます)に分け、それを組み合わせてメッセージを作成するというのが主流でした。
肉声を組み合わせて案内文を作る従来の方式は、人の声を使っているので当然声の質が安定し、聞き取りやすい放送が容易に作成できるという利点がある一方、声優さんの声の変化や引退により声の担当を変えなければいけなくなってしまう問題や、事前に想定されて用意されている案内しか流せないという課題がありました。
そこで採用されたのが合成音声です。ソフトが使える限り半永久的に声が変わることはありませんし、急にこれまで想定されていなかった案内放送が必要になっても、文章を打ち込めばそれがそのまま音声に変換されるのですぐに対応できます。
そういった手軽さから、「ReadSpeaker」を採用した駅放送は岡山CTC連動放送が導入されて以来、爆発的に全国に広まりつつあります。今回は、合成音声を用いた自動放送の先駆者である岡山駅の放送を少しのぞいてみましょう。
放送の種類と流れるタイミング
次の通りです。
SUNTRAS型放送がベースになっている放送のため、放送文面はかなり似通っているところが大きいですが、完全にコピーできていないので放送文には穴がいっぱいあります。(詳細は後述)
接近予告放送
放送文例
17時30分発、快速「サンライナー」福山行き、ワンマン列車は2番のりばから発車します。
電車は4両で到着します。足元○印、4番から7番で、二列に並んでお待ちください。
停車駅は、倉敷・新倉敷・金光・笠岡・東福山です。
The rapid service Sun Liner departing at 17:30 bound for Fukuyama will be leaving from track 2.
This train consists of 4 cars. Boarding locations are indicated by circles and numbers 4 through 7. Please form two lines to board the train.
This train will be stopping at Kurashiki, Shin-Kurashiki, Konko, Kasaoka, and Higashi-Fukuyama before arriving at Fukuyama terminal.
このほか、両数変更やのりばの変更なども、本家SUNTRAS型放送と同様に案内ができることを確認しました。
接近予告放送は、本家SUNTRAS型放送と違い、流れる条件がかなり複雑であるようです。
放送が流れ始めるのは到着15分前から3分周期ですが、次の条件に当てはまった場合野のみ流れます。
・同一種別内でそのホームから出発する先発列車であること
・当該列車が出発するホームに営業列車が在線していないこと(非営業列車が在線している場合には、次の営業列車の接近予告放送が流れます)
初めて出てきた「同一種別内」という概念。これが非常に面倒です。
たとえばですが、
3番線 9:45着/9:50発 山陽線普通 先発列車は9:40発
4番線 9:48着/9:55発 赤穂線普通 先発列車は9:25発
のように発車するとします。
SUNTRAS型放送であれば(岡山駅では到着15分前から流れる設定ですので)、3番線の普通は先の電車が発車した直後の9:40から、4番線の普通は先発列車と15分以上間隔があいているので、到着15分前の9:33から接近予告放送が流れ始めます。
しかし岡山駅では勝手が異なり、この場合には4番線9:55発の普通電車の接近予告放送は流れません。
まずは3番線と4番線の列車種別に注目します。両方とも種別は「普通」です。接近予告放送が流れるのは同一種別の先発列車に限りますので、4番線赤穂線普通の接近予告放送が流れるのは、3番線の山陽線普通が出発した後ということになります。
ですが、赤穂線普通は山陽線普通の出発よりも早くホームに入線するため、先発になる場面がありません。したがって例の場合、4番線の赤穂線普通は接近予告放送が一切流れずにホームに入線することになります。
では、例題です。次のような場合、接近予告放送が確実に流れない列車はどれでしょう。
6 09:45着/10:15発 特急「南風」
7 10:15着/10:35発 宇野みなと線普通
6 10:20着/10:45発 快速「マリンライナー」
8 10:10着/10:55発 特急「しおかぜ」
7 10:45着/11:05発 瀬戸大橋線普通
6 10:50着/11:15発 快速「マリンライナー」
↓
↓
↓
答えは8番のりば、10:55発 特急「しおかぜ」号です。入線する時刻にはまだ6番線に先発の特急「南風」号が停車しているため、先発になることがないので接近予告放送も流れません。
このような変な仕組みを採用しているのは、おそらく岡山駅は島式ホームの両側で同じ性別の声を流しているのが関係しているのかな、と思います。
岡山駅では、
1・2番山陽線下りホームは女声、
3・4番山陽線上りホームは男声、
5~8番瀬戸大橋線ホームはすべて女声、
9番津山線ホームは男声、
10番桃太郎線ホームは女声、
という具合で声を使い分けでいます。島式ホームの両側で声が違うのは9・10番ホームのみで、そのほかのホームは全てののりばで同じ声を流しています。
なぜ島式ホームの両側で同じ声を使用しているのかはさておき、同時に流れる場面をできるだけ少なくしようとしてこのような仕組みをとっているように感じました。
まあ趣味的目線で語ると、この変な仕様のせいで覚えているだけでも録り逃した放送が5列車ほどあるので、のりばごとに交互に男女声を使い分けてもらって接近予告放送をもっと流すように設定変えていただけると至極嬉しいものであります。
接近放送
列車入線直前に流れます。入線放送のBGMとしてホーム別の楽曲が流れたのち、入線放送が終わるとJR西日本のローカル線でよく聞く接近メロディに切り替わります。
ホームごとに流れる曲は次の通りです。
1番のりば 「いい日旅立ち」
2番のりば 「汽車」
3, 4番のりば 「線路は続くよどこまでも」
5〜8番のりば 「瀬戸の花嫁」
9, 10番のりば 「桃太郎」
瀬戸大橋線と宇野みなと線が発着する5〜8番のりばは「瀬戸の花嫁」、桃太郎線(吉備線)が発着する9, 10番のりばは「桃太郎」と、路線の特色にちなんだメロディもあれば、単に鉄道に関連した楽曲が選ばれているケースもあります。
到着放送
列車が完全に停車すると流れます。ホームに列車監視センサーが設置されています。
停車中放送
到着1分後に一度目の放送、そこから3分周期で流れます。停車時間が15分を超える場合には、出発時刻の15分前から3分周期で流れます。
英語放送は流れません。
出発放送
「発車警告ベル」と書かれたボタンを押下すると流れます。旧放送の頃は、このボタンを押すと文字通りベルが流れていたのですが、新放送ではベルが廃止されて音声案内に置き換えられました。
逆に言えば、このボタンが扱われないと出発放送が流れないわけで、ワンマン列車の運転士さんがわざわざ列車を降りてボタンを押しにくることは滅多にないため、ワンマン列車出発時に出発放送が流れるのは稀です。今回の収録ではサンライナー出発時の一度しかありませんでした。
また、回送など非営業列車の出発放送は自動で流れるようです。
マナー啓発放送
6時~22時?まで約6分周期で放送されているようです。
今回確認できた啓発放送は次の2種類でした。いずれも岡山駅で独自に作成した内容であるようです。
今日もJR西日本をご利用いただきまして、ありがとうございます。お客様にお願いいたします。
携帯電話やスマートフォンを操作しながらの通行は、危険ですのでおやめください。
また、列車をお待ちのときは、黄色の点字ブロックまで下がって、足元の白線に沿って、間隔をあけて、二列に並んでお待ちください。
点字ブロックは、目の不自由なお客様の大切な道しるべです。点字ブロックの周りは広く開けていただき、荷物などは置かないようにお願いいたします。
いつもご協力いただきまして、ありがとうございます。
今日もJR西日本、岡山駅をご利用いただきまして、ありがとうございます。お客様へ、エスカレーターご利用の際のお願いです。
エスカレーターを走ったり歩かれますと、お客様同士の接触の恐れがあり、大変危険です。エスカレーターご利用の際は、立ち止まってご利用いただきますようにお願いいたします。
合成音声の利点を生かした案内
合成音声の利点は何といっても、新しく必要になった案内をすぐに用意できるところです。肉声放送だったころのように、わざわざ声優さんを呼んで収録する必要はありません。読み上げソフトに文章を入力すればそのまま読み上げてくれるわけですから、各駅専用の放送文だって簡単に用意できるわけです。
岡山CTC連動放送の導入からすでに数年が経ち、一部の駅ではオリジナルの啓発メッセージや付帯放送を用意して、案内の拡充に取り組んでいます。岡山駅もその一つです。
今回の動画に収録した音声から、岡山駅が独自で作成したとみられるメッセージをみてみましょう。
「この電車は途中の倉敷で、伯備線に連絡します」(普通 糸崎行き)
「姫路方面へお越しのお客様は、終点相生でお乗り換えください」(普通 相生行き)
「津山線ご利用のお客様にご案内いたします。津山線では、ICOCAなどのIC乗車券のご利用は、隣の駅法界院駅までです。備前原駅から津山方面では、IC乗車券はご利用いただけませんので、ご注意ください。津山方面へお越しのお客様は、乗車券をお求めのうえご乗車ください」(津山線)
「次のマリンライナーの自由席乗車位置は、頭上マリンライナー吊り下げ札、3番と4番です」(指定席がないマリンライナー)
「1号車指定席車両は、車内点検と清掃を行いますので、指定席にご乗車のお客様は、作業終了までしばらくホームでお待ちください」「快速マリンライナーの自由席をご利用のお客様にお願いいたします。1号車はデッキも含め指定席です。指定席券をお持ちでないお客様は、2号車から5号車の自由席車両をご利用ください」(指定席があるマリンライナー)
「新幹線に乗り換えのお客様は、2階、新幹線乗り換え口へお越しください」(特急到着時)
「ご乗車の際は足元に十分ご注意ください。小さなお子様をお連れのお客様は、手をつないでご乗車ください」(四国方面特急)
「なお、寝台特急サンライズ瀬戸・出雲号は、連結作業終了後すぐに発車します」(サンライズ号)
「この列車は当駅で、前7両、サンライズ瀬戸 琴平行きと、後ろ7両、サンライズ出雲 出雲市行きに切り離します」(サンライズ号)
「この列車は、お客様の乗り降りがすみますと、ドアをいったん閉めて列車の切り離し作業を行います。ドア付近のお客様は、閉まるドアにご注意ください」(当駅で解放がある列車)
「ただ今の時間帯は、地下改札口は閉鎖しております。2階中央改札口をご利用ください」(深夜帯に到着する列車)
「次の特急やくも号は、急遽の編成変更が発生したため、指定席車両で一部のがございません。代わりのお席をご用意しておりますので、恐れ入りますが、車内で車掌にお申し出いただきますよう、お願いいたします。ご利用のお客様には、大変ご迷惑をおかけいたします」(特急やくも29号)
「この列車は全車両、グリーン車指定席です。乗車券のほかに、ラ・マル ことひらのグリーン車指定席券をご用意ください。旅支度を行う特別な時間を、琴平駅までお楽しみください」(臨時ラ・マル・ド・ボァ)
「吉備津彦神社・吉備津神社・最上稲荷へ初詣にお越しのお客様は、どうぞご利用ください」(臨時最上稲荷初詣号)
特に面白いと感じた部分は太字にしてみました。
こんなにたくさんのイレギュラーな放送が用意されています。
肉声吹込みの自動放送では用意することが難しいであろう、旅情を誘うラ・マルことひら専用の放送、連結終了後すぐ発車するというサンライズ号や、津山線ICカードの利用に関する柔軟な案内など、合成音声だから実現できた案内、テンプレート通りの案内をうまく補う独自設定の文章が見られます。
極めつけは、急遽車両変更が発生したことによる指定席座駅変更の案内。従来の肉声吹込みの自動放送で、こういった事態を事前に予測し、案内パーツを用意することは非常に難しいでしょう。駅員が肉声放送で案内を行うというのが現実的な対処です。
こんなタイムリーな案内だって、合成音声であれば、すぐに音声案内を用意して放送を流すことができます。肉声吹込み自動放送の限界を感じたというか、合成音声放送の未来を感じた瞬間でした。
さいごに
岡山CTC連動放送放送にはマイナス点もいっぱいあります。でもこの記事では、あえてマイナス点は極力削って紹介しました。
というのも、音鉄の中には悲しいことに、「合成音声ソフトを使用しているから」という理由だけで、その放送システムは評価に値しないと全面否定する方が一定数いらっしゃるからです。
人の声には温かみはあるが、限界もある。機械の声には温かみはないが、限界もない。
自動放送は、機械合成音声を以って初めて自由の身になり、「用意された音声パーツの組み合わせでしか案内を生成できない」という壁を越えようとしています。この自由度こそが、合成音声放送が人の声に勝てる最大の利点だと私は確信していますし、鉄道各社が合成音声を採用する最大の理由であってほしいと願っています。
だからこそ今回は、岡山CTC放送の良い点ーー合成音声だからこそ実現できた、型にはまらない放送案内ーーを中心に紹介しました。自動放送よ、もっと自由になれ。