南海電車 合成音声を駅放送に採用 今後の方針模索中?

 

南海電車といえば、駅放送は女声放送のみ、放送の内容は最低限、かつ駅放送・車内放送に同じ声優を起用するという“三つの矢”を徹底し、放送作成にかかるコストを極限まで減らして案内放送を整備している鉄道会社です。

案内放送作成にかかるコストのさらなる削減を図るため、音声合成ソフトを活用した駅自動放送が試験的に3駅に導入されましたので、記録するついでに調査してきました。

 

普通車/各駅停車の接近放送

三国ケ丘駅

まもなく1番のりばに、電車が到着します。危険ですから、黄色の点字タイルまでお下がりください。

 

只今到着の電車は、各駅停車 金剛行きです。金剛まで各駅に停まります。

この電車は中百舌鳥で、泉北高速線に接続します。

The train now arriving is the local train bound for Kongo. This train will be stopping at every station to Kongo. 

Passengers can transfer to the Semboku-Kosoku line at the Nakamozu.

 

各駅停車でも各駅に停まる旨の案内が必ず挟まれます。またあとの和泉中央行き準急を待つより、普通電車に乗車して中百舌鳥で乗り換えた方が和泉中央方面に早く着ける場合には、中百舌鳥で泉北高速線に連絡することが案内されます。

 

岸和田駅

まもなく3番のりばに、普通車 なんば行きが6両で到着します。足元赤色乗車位置○印の、2番から7番でお待ちください。危険ですから、黄色の点字タイルまでお下がりください。

 

この電車は、泉大津まで先に到着します。

只今到着の電車は、普通車 なんば行きです。

 

The train now arriving is the local train bound for Namba. To Izumiotsu, this train will arrive first.

*実際の放送では「this train」が欠損しています。

 

普通車では先着案内が必ず入ります。先着案内は、当駅で優等種別の待避を行わない場合には上記のように到着放送の頭に、待避を行う場合には出発放送に付帯します。また、南海では初となる乗車位置の案内を行う駅となりました。

 

りんくうタウン駅(予測)

みなさま、まもなく4番のりばに、電車が到着します。危険ですから、黄色の点字タイルまでお下がりください。

 

只今到着の電車は、普通車 なんば行きです。次は泉佐野に停まります。

The train now arriving is the local train bound for Namba. The next stop is Izumisano.

 

りんくうタウン駅は大筋の案内文を変更せず、旧放送をほぼそのままコピーしていますので、他の2駅では削除された「みなさま」が残っています。

 

 

優等種別の接近放送

三国ケ丘駅

まもなく2番のりばに、電車が到着します。危険ですから、黄色の点字タイルまでお下がりください。

 

只今到着の電車は、準急行 なんば行きです。途中の停車駅は、堺東・天下茶屋新今宮です。次は堺東に停まります。

The train now arriving is the semi-express train bound for Namba. The next stop is Sakai-Higashi.

 

三国ケ丘駅の放送では全区間の停車駅案内が追加される形となりました。そのほかの部分は旧世代の詳細型放送と何ら変わりはありません。

 

岸和田駅

まもなく3番のりばに、空港急行 なんば行きが6両で到着します。足元赤色乗車位置○印の、2番から7番でお待ちください。危険ですから、黄色の点字タイルまでお下がりください。

 

途中の停車駅は、春木・泉大津・羽衣・堺・住吉大社天下茶屋新今宮・なんばです。次は春木に停まります。

この電車は、住吉大社に臨時停車します。

只今到着の電車は、空港急行 なんば行きです。

 

The train now arriving is the airport express train bound for Namba. The next stop is Haruki.

This train will make an unscheduled stop at the Sumiyoshi Taisha.

 

大化けしたのが岸和田駅。両数と乗車位置の情報が増えたうえに、全区間の停車駅案内が追加されたことで、ようやく他社私鉄と同水準の情報量を持つ放送となりました。

また南海の放送は、住吉大社臨時停車を行う空港急行において、臨時停車のみを案内し次の停車駅を案内しない形をとっていましたが、新放送では臨時停車の案内に加えて全区間の停車駅、次の停車駅を案内するようになっています。

 

りんくうタウン駅

みなさま、まもなく4番のりばに、電車が到着します。危険ですから、黄色の点字タイルまでお下がりください。

 

只今到着の電車は、空港急行 なんば行きです。次は泉佐野に停まります。

この電車は、住吉大社に臨時停車します。

The train now arriving is the airport express train bound for Namba. The next stop is Izumisano.

This train will make an unscheduled stop at the Sumiyoshi Taisha.

 

一方のりんくうタウン駅。この駅も放送文の大筋は変わっていないもののプチ改善が入っており、臨時停車の案内が付帯しても次の停車駅を案内するようになっていますが、ほかの2駅とは異なり全区間の停車駅は案内しない方針であるようです。

りんくうタウン駅はJRの電車も南海の放送が案内することから、JRに関しても全区間の停車駅等を案内すると設定が面倒であるため、あえて旧放送をそのままなぞらえたように思われます。

 

 

総評

まず一言で、南海の音声合成ソフト(読み上げソフト)を活用した駅放送を聞いてみた感想を述べると、読み上げソフトを使った放送の中ではトップクラスにクオリティが高いです。

 

日本語放送については、同じくHOYA社の読み上げソフトを導入しているJR西日本の岡山地区CTC連動放送や、北陸支社の駅放送に次いで並ぶくらい自然な読み上げで、合成音声特有の不気味さこそ残っているものの、面白おかしく扱えるようなイントネーションのミスや、明らかな手抜きは感じられませんでした。

また、HOYA社の読み上げソフトに限らず、音声読み上げソフトはだいたい「~ください」「~します」という文節の手前に句読点を置くと、これらの文節だけイントネーションが不自然に高くなる傾向にあるのですが、南海はここも事前の音声作成段階で読み上げが不自然であるとチェックしたようで、修正した跡が見られます。男声放送では特にそれが顕著です。

 

英語放送についても同様で、駅名など固有名詞の読み上げについて、かなり苦労しつつも調教したあとが見られます。たとえば'Kansai Airport'(関西空港)の'Kansai'なんか、「カンサイ」と全ての音を等間隔で明瞭に発音させるため工夫している(逆に、調声が忘れられている‘Kansai Airport rapid service’は、カンサイが「カンサーイ」のように読み上げられているのがわかると思います)のが伺えます。

英語放送での駅名の読み上げについては、南海が今のところ最も日本で一番頑張っていると言えるのではないでしょうか。

 

新しい南海流自動放送を探して

りんくうタウン駅では旧来の放送をほぼそのまま合成音声に移植しただけであるのに対して、三国ヶ丘では全区間の停車駅を読み上げるようになり、岸和田駅では停車駅案内に加えて両数・乗車位置案内も追加し、新しい自動放送の形を模索しているのが伺えます。いまはまだ方向性を模索している段階のようなので、今後導入される放送ではまた仕様が変わってしまうことも考えられそうです。

また、上下線で男声・女声を使い分けるようになったので、どの方面の電車が案内されているのか分かりやすくなっています。南海はこれまで、関西私鉄で唯一男声放送を導入してこなかった会社です。今回の合成音声化は、長らく起用してきたなじみの声を脱した大きな変化であると同時に、これまで駅放送の変化を嫌ってきた南海の自動放送史に残る大革命と言えます。

 

今後改善してほしいところ

全体を通して、列車入線時に流れる到着放送を流し始めるのが遅すぎます。これは別にこの新放送に限らず、南海の駅放送全体でいえることですが、岸和田駅ではそれが特に顕著です。

情報が倍以上の水準で増えているのに、放送を流し始めるタイミングは変わっていないため、停車駅案内が入る優等種別ではだいたい尺が足りていません。特に特急の接近時には、電車が完全に止まってから英語放送がようやく流れ始めているくらいですから、到着時に肉声放送を挟む駅員さんがいる場合には、英語放送は十中八九流れないことになります。

かろうじて一部だけ流れたとしても、英語放送は種別、行き先、次の停車駅の案内の後に「全席指定のため特急券が必要である」という案内が入る流れのため、特急に特急券が必要である旨の案内の流れる確率は異常に少ないです。もし外国からの観光客を見据えて英語放送に本気で取り組むのであれば、そもそも英語の案内が流れるような仕組みを整えることが必要です。英語放送が流れ終わっても十分に肉声放送を挟む時間があるくらい、放送のタイミングを全体的に早めるなどの対処が必要であると思われます。

 

停車駅案内について、通過駅がある南海線普通車(岸和田駅)では停車駅案内がないのに、通過駅がない高野線各駅停車(三国ケ丘駅)では停車駅案内が流れるというチグハグな点や、三国ケ丘ではなんば方面行き電車で先着案内が入らない点が気になります。

 

最後に、趣味的な観点から一つだけ愚痴を言わせてください。南海の駅放送は、自動放送再生中に一瞬でもマイクのスイッチを入れられると、自動放送の再生が完全にキャンセルされるという、音鉄からすると鬼のような仕様なのですが、この鬼モードが新放送にもしっかり引き継がれています。これが残られると収録の難易度が上がるので、ぜひ今後展開する際には、マイクのスイッチが入っている間だけ放送の音量を下げ、スイッチが切られたら引き続き放送を再生する形に変えていただけたらなあと。

 

その他、英語放送では細かい文法のミス(先着案内において主語が欠落している、必要のないtheがatのうしろにくっついている、など)や、聞き取りづらい発音(ラピートに特急券が必要である旨の案内で、'Passengers'の手前にタンマを置き忘れているなど)も気になりましたが、ここまでいくと重箱の隅を叩くような指摘になるのでやめておきます。

 

正直、合成音声化でこれほど期待した事例はありません。今後も南海さんには頑張ってほしいところです。

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