近鉄は、青山峠を境に管轄する部署が異なり、青山峠より西側は「大阪統括部」が、東側は「名古屋統括部」が管理しています。同じ近鉄という名前を冠してはいますが、名古屋側と大阪側とではその風土も、性格も、丸っ切り異なります。
仲の良い2つの会社が手を組んでいる、形容するとすればそんな感じです。
今回の収録中、大阪統括部のタブレット放送での常識が、名古屋統括部の放送では通じないと言うことが多々ありましたので、今回はそちらをまとめておきたいと思います。
「各駅停車」と「普通電車」
各駅に停まる電車のことを、大阪統括部では「各駅停車」、名古屋統括部では「普通電車」と案内します。タブレット放送導入の前から、駅放送での種別案内がどちらの統括部が管轄しているかによって異なりましたが、タブレット放送でも同様のすみわけが確認できました。
ただしタブレットの場合は事情が異なり、青山峠を越えれば無条件に両者が入れ替わるわけではなく、大阪統括部持ちのタブレット放送(=大阪統括部所属の車掌が乗務する)では、いかなる区間でも「各駅停車」、名古屋統括部持ちのタブレットでは「普通電車」と流れるようです。
「まもなく」から始まる放送が存在しない
ところが名古屋統括部の放送では、このような取り組みはありません。
たとえば烏森(かすもり)ー黄金駅間はおよそ0.7kmで、大阪側でしたら確実に「まもなく」でまとめられるような距離ですが、しっかり放送は2回分用意されています。そのせいで尺が足りないため、地味ですが英語が切られやすいです。
また、川原町→四日市間および新正→四日市間も尺不足が顕著です。四日市到着時の長い放送を押し込むため英語放送を2回とも切って流したり、もしくは最初の「次は」から始まる放送をカットして流したりしています。
開扉方向の案内はいつ?
今年初めに行われたROM更新で放送の方針が大きく変わり、開扉方向が固定の駅では、その案内が放送にあらかじめ組み込まれるように変わりました。
(逆に今年の初めまでは、絶対に左側の扉が開く駅でも、「左側の扉が開きます。ご注意ください」の放送は別に手動で流さないと流れなかったのです)
ROM更新以降に導入されている奈良・京都・橿原線以外の路線では、開扉方向組み込みが基本となって組み立てられています。名古屋統括部の各路線も、開扉方向が変わらない駅ではドアの開く側の案内があらかじめ組み込まれています。
ところが、どちらのドアが開くかの案内を行うタイミングが、大阪統括部と名古屋統括部で違います。
開扉方向の案内は次の停車駅などを流したのち、放送の最後に行うのが大阪側の流れですが、名古屋側では開扉方向の案内を次の停車駅案内前に流すようになっています。
たとえば伊勢志摩方面の急行が榊原温泉口に到着する場合、両者のROMで案内が次のように変わります。
同様に、伊勢中川~鳥羽間では、たとえ同じ急行という種別だとしても名古屋発の電車か大阪発の電車かで放送文を流す順番や内容が変わります。
ROM更新前並みに長いパーツ間隔
大阪統括部の先行導入された線区では、長すぎる放送が問題になっていました。単語と単語の間隔が特急用の放送と同じになっていたため、通勤列車で次々放送を流すには尺が足りませんでした。
(この記事中ですでに尺不足と何度も書いていますが、実際問題、近鉄の車内放送は尺不足で流すのがギリギリの放送ばかりです)
先述のROM更新を境にこれが改められ、単語間のポーズ時間が大幅に短縮され、放送の長さがおおよそ2割減くらいになっています。
しかし名古屋統括部の放送では、たしかに大阪統括部の初期ROMと比べれば間隔は短いものの、それでも大阪統括部の新ROMと比べればかなり単語間の間隔があいた放送を使用しています。
簡潔な英語案内
名古屋側の放送で最も驚いたのが、ある英語放送パーツの存在です。
かねてからTwitterではつぶやいていましたが、個人的にどうも"This train is the local train"の言い方が引っかかるのです。「この電車は普通電車」。日本語にすると違和感はありませんが、英語では同じ単語を極力重複して使わないのがふつうですから、"This is the local train"くらいにするのがふつうです。
そしたらそんな夢のようなパーツが名古屋統括部の放送には平然と存在したというお話です。
名古屋統括部の放送では、一部の英語放送内の種別案内で"This is the local train", "This is the Express train"という音声パーツが使われます。
ただし、使われるのは限定された一部の行き先の時だけです。たとえば伊勢中川行き普通電車では名古屋統括部独自の"This is the local train"と流れますが、四日市行き普通電車では"This train is the local train"と、大阪統括部と同じパーツを用いています。
ならば名古屋線でしか流れない行き先ならどうでしょう。しかし平田町行き急行では、大阪統括部と同じ"This train is the Express"です。
また、普通電車と急行で独自のパーツがあるにもかかわらず、準急ではどの種別・行き先のパターンでも大阪統括部と同じ"This train is the Semi-Express"としか言ってくれません。
使い分けの基準はあるのでしょうか。
主要駅発車後の詳細案内に「近鉄を〜」が入らない
近鉄の車内放送では、特に主要な駅発車後に列車案内(種別と行き先の案内)を流します。
大阪統括部の放送では「(お待たせしました。)近鉄をご利用いただきありがとうございます。この電車は(行き先)行き(種別)です」の一文から始まるようになっています。
対して名古屋統括部の放送では、「この電車は(行き先)行き(種別)です」から流れるように簡略化がなされており、そして流れる頻度も少々多めになっています。
下り急行の伊勢中川発車後の案内が良い例で、名古屋側ROMでは「この電車は○○行き急行です。次は松阪、松阪です」と続きますが、大阪側ROMでは特段案内はなく「次は松阪、松阪です」と続きます。
内容を薄くして挟む頻度を多くしているのでしょう。
「発車までしばらくお待ちください」
名古屋統括部独自の取り組みです。始発駅停車中の放送の最後に、「発車までしばらくお待ちください」があらかじめ組み込まれています。
大阪統括部の放送では、始発駅停車中の放送で列車の行き先・種別と停車駅しか案内しませんが、名古屋側のタブレットではそれに続いて「発車までしばらくお待ちください」の一言が流れるというものです。
名古屋統括部の放送でプリセットされている「発車までしばらくお待ちください」パーツは、「クイック放送」に収録されているパーツとはまた別録りされた音源を使っています。
「〇〇の次は〇〇に停まります」vs「〇〇の次は〇〇です」
名古屋統括部の放送では、次々停車駅が終着の場合、停車駅の案内が「〇〇の次は、〇〇に停まります」ではなく「〇〇の次は、○○です」に変わります。
終着駅には停まるのではなく、そこに着くものとして明確に区別をしているようです。
なお、次々停車駅が終点の場合に停車駅案内が変わる例は大阪側でも全く見られないわけではなく、南大阪線の車内自動放送でも同様に、次々停車駅が終着駅の場合は「〇〇の次は、○○です」に変化します。
2か国語の足元注意喚起
カーブ中にある駅では、ホームと電車の間に隙間があるため、特にそれが危ないとされる駅では足元に注意するよう促す「電車とホームの間が空いています。お降りの際は足もとにご注意ください」という放送が流れます。
名古屋統括部では(米野駅到着時の放送に限ってですが)、足元注意喚起の英語放送も用意されていることを確認できました。
このような感じでございます。
たとえ風土が違うとはいえ、同時に導入したシステムですから両者で放送文面はそれほど変わらないだろうと思っていましたが、むしろ根幹になるような部分まで異なるという沼でした。
名古屋方面へ収録に行かれる方はぜひ参考にしてみてください!
名古屋統括部の車内放送で、もう一ついいと思った点を最後に書き残させてください。
これはタブレットの性能ではなく車掌さんに起因するものですが、名古屋側では始発案内を4か国語で流す確率が大阪側と比べ桁違いに高くなっています。
たとえ夜の10時に運転される桑名行き普通電車でも、始発駅では4か国語放送。
朝6時の名古屋行き急行から、始発駅4か国語放送。
お昼の五十鈴川行き急行もためらうことなく始発駅で4か国語放送。
白塚始発の伊勢中川行き普通電車でも始発駅4か国語放送。
逆に流されない方の方が少ない状況でした。
宝の持ち腐れになっている大阪側と比べれば、非常にすばらしい取り組みだと思います。ぜひ続けてください。
以上、大阪側ROMと名古屋側ROMの違いでした。
それでは~!