型破りな稲荷駅の放送


訪日観光客が多数利用することから1年ほど前に、日本語に続き中国語と韓国語を流す多言語案内放送が導入されました。



3か国語放送といえば嵯峨嵐山駅のこちらが記憶に新しいですが、稲荷駅の放送はここまで詳しいものではなく、日英中3言語とも列車の種別、行き先と「黄色い線まで下がれ」までしか流さず、両数やそのほかの案内はありません。

またみやこ路快速の臨時停車には対応していないため簡易接近放送しか流れない…というあまりやる気は見せてくれない放送となっています。

まずは放送をお聞きください。



5分程度の短い動画ですのでどうぞ最後までご覧いただくか、最低でも下り通過電車までお聞きいただいてから読み進めてください。

両数も流さない詳細型放送の中でも簡易な放送ですので、さらっと流して聞くことができると思います。







…英語にあまり詳しくない方はかなり聞き取りにくい放送ではないでしょうか。

そうなんです。今回ご紹介する稲荷駅の駅放送は、国内の英語放送という枠で見ればかなり型破りな英語放送なんです。

流すことは伝わるように流せているため英語放送として質が悪いわけではありませんが、あまり使われない表現も織り交ぜながらかなり簡潔にまとめちゃっています。型にはまった英文ばかり聞いていると聞き取りにくいという代物です。


また比較対象が少ないため詳しくは省きますが中国語放送も、「普通」の代わりに中国で使われる「普客」(普通客車の略)という日本でいうところの「各停」のような略語を使うなど、嵯峨嵐山の放送とは異なり少しくだけた表現になっているようです。

■アナウンスを観察する(停車する場合)

さて話をもどしまして、稲荷駅の英語放送について詳しく見ていきたいと思います。

以下に普通列車の宇治行きと奈良行きの接近放送を抜き出してみました。まずはこちらをお読みください。


An Uji-bound local train is about to arrive at platform 2.
Please remain behind the textured yellow line.

A Nara-bound local train is about to arrive at platform 2.
Please remain behind the textured yellow line.


聞きなれない表現が多いですよね。まず”(行き先)-bound”という表現。そのまま「(行き先)行きの」という意味になります。

通じる表現ではありますが、ニューヨークの地下鉄を除いてアナウンスではあまり使われる表現ではありません。
まさか世界的観光地の最寄り駅で”bound for”ではなくこの表現が用いられるとは予想せず、かなり驚かされました。

地名が母音初めの宇治行きの際には”An”に変わっている点も逃せません。


次に”be about to do”を用いて”is about to arrive”としている点。”be about to do”は「今まさに~しようとしている」という意味で、つまるところ「電車が今到着しようとしている」と放送しているわけです。

…普通に進行形で”is arriving at”でも支障はないように見えますが、何か思惑があるのでしょうか。


そして「下がれ」問題。今までに確認できた表現”stay behind the yellow line”、”stand behind the yellow line”、”step back behind the yellow line”に続いて、今回は”remain behind the yellow line”が出てきました。

“remain”は「~に残る」という意味です。この場合は”stay”とほぼ同じ意味ですね。

直訳すると「黄色い線より内側に残れ」ですが、意訳するとすれば「黄色い線より外側に出るな」が妥当なところでしょうか。


さらに悩ませる黄色い線問題。各社とも趣向はあまり凝らさない傾向で、”yellow line”だけであったり、同じJR西日本でも阪和線のシステムでは”dimpled yellow line”(くぼみがある黄色い線)と意訳したりしていますが、今回は”textured yellow line”ときました。


having a surface that is not smooth but with a raised pattern
(なめらかではなく、突起のある模様をもつ表面を持つもの)

と出てきました。「くぼみ」よりも「突起」、確かに正しい訳と言えそうです。勉強になります( ・ω・)

■通過する場合

今度は通過するパターンの放送も見てみましょう。

A train is about to pass platform 2 without stopping.
Please remain behind the textured yellow line.

後半はほぼ同じ英文なので割愛します。前半がなかなか面白いですね。

「すぐに電車が2番ホームを止まらずに通過しようとしています。凸凹の氷線より外側には出ないでください」

うーむ…「止まらずに通過」……。
( ・ω・)…?

”without stopping”の発音が好きですし嫌いではないのでいいですけども。



以上、稲荷駅の英語放送についてご紹介いたしました。

非常に目新しい表現ばかりの挑戦的な放送ですが、今後の英語放送でも使われるのでしょうか。

好き嫌いが分かれそうな革新的な放送だけに今後に注目です。


それでは~!

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