日本における4か国語放送の必要性
先日、Twitterのタイムラインをぼーっと追いかけていると、気になるニュースが飛び込んできました。
「JR主要駅の放送、原則4か国語に…日英中韓」
http://news.livedoor.com/article/detail/15931494/
要約すると、主要駅の案内放送は、日本語に加えて英語、中国語、韓国語の4言語を基本とし、外国人に運行情報が伝わるようにしていきましょう、ということです。
実な日本国内でもすでにこういった動きは加速化しています。関西と中京圏をむずび、2府4県に渡る広大な路線網を有する近畿日本鉄道(通称:近鉄)では、2016年の春より順次、車内放送の4か国語化に取り組んでいます。
最初の数秒だけではなく、できれば3分くらいまでお聞きください。
こちらは近鉄南大阪線の各駅停車の車内放送です。南大阪線というとなじみがない方も多いでしょう。JR大阪環状線 天王寺駅付近を始発とし、奈良県吉野までを結ぶ路線で、通勤通学に特化しており観光客もほかの路線と比べれば少なめです。
そういった路線でも、ましてや各駅停車というより外国人の利用が少なそうな列車でも、4か国語の放送案内が流せるようになっている(*必ず流すわけではない)のです。
もちろんこういった車内放送が導入されたのには背景があります。
この記事は、4か国語での放送案内を増やすという方針に賛同し、賛同する根拠をつらつらと並べた記事です。
多言語案内放送、特に中国語・韓国語の案内に否定的な方も、どうぞ最後までお読みになり、なぜ必要とされているかをご理解いただければと思います。
訪日外国人観光客の統計からみる、必要な言語
観光客がもたらすインバウンド効果は非常に大きな経済効果をもたらしています。ここ数年の訪日外国人観光客の数はずっと右肩上がりで上昇しており、もはやどこに行っても外国の方がいると言っても過言ではなくなりました。
ではここで訪日観光客がどの言語圏から来ているかをまとめた統計を見てみましょう。
統計は2018年のものです。日本政府観光局(JNTO)の資料より引用し、上位10か国のみを記載しました。また各国での使用言語は、外務省の各国データを参考に記載しました。
統計の引用:日本政府観光局(JNTO)
使用言語の引用:外務省の各国データ > 一般事情 より引用
中国語が公用語である地域からの観光客数は、なんと1,245,900人。全来日者数のおよそ半数を占めます。韓国からの来訪者も全体のおよそ24%です。
世界で英語を学習している人の数はどうであるとか、世界的にはフランス語話者の方が多いだとか、そんなことは日本を訪れる観光客に的を絞ればどっちでもよく、実際問題としては中国語や韓国語話者の方が多いのです。言い換えればこれは、むしろ英語を必要とする来日者の方が少ないとも言えます。
この膨大な数こそが中国語、韓国語での放送案内が必要とされる最大の理由です。もはや英語だけ書いて/流しておいてなんとかできる数ではないというのがお分かりになられたでしょう。
多言語案内放送のもう1つの目的
多言語案内放送を導入する目的としては、韓国語や中国語を母語とする方への案内が第一目標になってきます。しかし単に案内することだけが目的というわけではありません。
中国人や韓国人の観光客は膨大な数であるというのは前の項でもご紹介しました。その膨大な数の日本語や英語に精通していない利用客への案内・対応を、その方々の母語に精通していない駅員さん、車掌さんなど、現場に任せっきりになっているのが現状です。
つまり多言語案内放送を導入することは、直接旅客と対面して働く現場仕事の負担軽減も狙ってのものでもあります。
よく「中国人・韓国人は日本人より英語ができるという。だから英語だけで十分だ」という方がいますが、中国や韓国の方も日本人と同じように英語を第二言語(外国語)として学習しているわけで、全員が全員満足に使えるわけではありません。
外国の方に積極的に話しかけ、道案内をしてきた経験からみると、特に韓国人の方は英語がカタコト程度しか通じない場合が多かったです。そういった方々に運行情報が伝わるかは言うまでもないでしょう。
また現場の駅員さん・車掌さんも満足に英語が話せる方ばかりではありません。互いに言語が通じないもの同士が会話をすることなど不可能ですから、現場の負担を軽減するものとして、早急な導入が求められる設備であると言えます。
アジア先進国の導入事例
韓国:ソウルメトロと空港アクセス鉄道
韓国の首都、ソウルの地下を走る「ソウルメトロ」では、随分と前から韓国語、英語、中国語、日本語による4か国語放送を行っています。韓国語、英語では詳細な案内を行いますが、中国語、日本語では簡易な案内にとどめています。
首都ソウルと金浦空港を結ぶ空港アクセス鉄道「A’REX」でも4か国語放送が行われていますが、こちらでは駅名のみの案内ではなく、乗り換え案内や出口の案内も含めた詳しい日本語放送が流されています。
後半のものは空港直通路線だから当たり前、と言ってしまいそうですが、日本国内の空港アクセスを担っている路線で、4か国語への対応ができている会社は片手で数えられるほどしかありません。
国内の地下鉄での4か国語放送に至っては、名古屋市営地下鉄の名古屋到着時のみという、非常に限定的な導入事例しか見られません。
あれだけ反日だ、どうだという報道ばかりの韓国ですら、日本語の放送案内はこれほどにも充実しているのです。たかだか数秒に満たないアナウンスですら、感情にとらわれ不満が噴出する日本は、それほどアジア圏の先進国の中でも遅れているといえるでしょう。
この記事を読み、今回、菅官房長官が4か国語放送導入を推進した理由を少しでもご理解いただければと思います。
しかし私も4か国語放送には全面的に賛成というわけではありません。空港アクセス路線であろうと地下鉄線であろうと、ここは日本です。日本語話者が利用者として最も多いわけで、日本語を疎かにしてまでほかの言語を推し進めるというのもばかげた話です。
日本語を蔑ろにしない形で、かつ誰にでも利用しやすい公共交通を作り出してほしいと思います。