「何時ちょうど発」を案内する放送文--"o'clock"問題

 

「何時ちょうど」と言うのを表現するのに "o'clock" という便利な表現があります。

 

「7時ちょうど」だったら "seven o'clock" 、

「12時ちょうど」だったら "twelve o'clock" 。

中学英語で習う基礎的な英語表現ですよね。

 

でもこの表現、鉄道と言う特殊な分野に限っては少し癖がある表現なのです。

 

 

午後の「ちょうど発」はなんと言う?

この疑問に思い立ったのがJR西日本の駅英語放送で流れていた「ちょうど発」を案内する英語放送の違いでした。

 

まず大前提としておきたいのが、JR西日本の駅放送では午前の「ちょうど発」の場合 "o'clock" と言う表現を用います。例外なく、です。

たとえば10時ちょうど発なら "ten o'clock" です。

 

では午後の場合は何と放送されるのでしょうか。

 

大阪環状線大和路線ゆめ咲線・東線

まずは流暢さに定評がある大阪環状線大和路線ゆめ咲線・東線の駅放送から。

 

The Regional Rapid Service departing at twenty o'clock bound for Kyoto will be leaving from track 2.

 

こちらでは

20時ちょうど発 → twenty o'clock

と放送しています。午前と同様にo'clock 「~時」を付けただけというわけです。

 

JR神戸・京都・琵琶湖線などの放送

使用されている路線が多い村山・よしいペアの駅放送ではどう流れているのでしょうか。

 

The Special Rapid Service departing at fifteen hundred hours bound for Maibara will be leaving from track 2.

 

こちらでは

15時ちょうど発 → fifteen hundred hours

という表現を用いています。

 

聞きなれない表現ですよね。意識としては「15時ちょうど」と言っているのではなく「1500時」と言っていると理解してください。

 

広島詳細型の放送

広島支社管轄で使われているSUNTRAS型放送に近い放送文を備えた放送システムの放送です。

 

 

This train will be departing at seventeen hundred hours.

 

こちらはJR神戸・京都・琵琶湖線の放送文に倣い "hundred hours" という表現を用いています。

 

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対立する上記2つの放送文ですが、これらは果たして正しい表現なのでしょうか。

 

英語と言うのはもはやイギリスやアメリカと言った一国の言語という枠を超えて世界中で使われていますので、正しい型と言うものはなく、通じる表現であればよいとみなすこともできます。

 

ただ模範例も知っておきたいというのが私の正直なところ。というわけで勝手に調べてみたので結果を載せておきます。

 

英語圏で使われている表現とは?

実際に英語圏の駅アナウンスを聞いてみましょう。

 

 

 

Platform 1, for the fourteen hundred Great Western Railway service to Bristol Temple Meads.
1番のりばは、14時ちょうど発の Great Western Railway 線、Bristol Temple Meads 行きです。

Calling at(停車駅は): Reading, Swindon, Chippenham, Bath Spa, and Bristol Temple Meads.

This train is formed of ten coaches.
この電車は10両編成です。

Change at Reading for services to Penzance.
Penzance 行きは Reading でお乗り換えです。

An at-seat service of light refreshments is available on the train.
この電車では軽食のワゴン販売がご利用いただけます。

Please be aware that you can only bring a bycicle on this service if you have booked beforehand.
自転車の持ち込みは事前にご予約いただいている場合に限りますので、ご承知ください。

First class is at the middle and front of the train.
ファーストクラスはこの電車の真ん中と先頭にあります。

 

ロンドンは Paddington 駅のアナウンスを引用しました。イギリス英語では少なくとも、午後の時刻で「ちょうど発」を案内するときには "hundred" をふつうに用いているということが分かります。

 

このことからJR神戸・京都・琵琶湖線や広島支社の詳細型放送は、時刻の表現に関してはしっかり考えられて設計されていることが分かります。

 

 

 

The train at platform 8 is the eleven hundred Greater Anglia service to Norwich.

 

ただし留意しなければいけないことが1つだけ。イギリスの駅放送では午前の「ちょうど発」の場合も "hundred" を用いている点には留意しなければいけません。

つまり24時間制が根付いている国では、午前と午後で表現を分けているわけではなく、一日を通して "hundred (hours)" を用いているのです。

 

ですが後述する引用を見る限り、午前(12時までの時間)は o'clock 、午後は hundred hours で使い分けているのはそれほど不自然な表現と言うわけでもないようなのでこれもご承知を。

 

 

24時間制でも o'clock は使えるのか

24時間制で時刻を表現する方法を見る前に、基礎知識として12時間制と24時間制で時間を表す表現がどのように違うのかを見ていきましょう。

 

たとえば朝8時と夜8時を言う場合は、12時間制の表記の場合であれば、

It's eight a.m.

It's eight p.m.

と言うのがふつうです。「午前」「午後」をつけるわけですね。

 

一方、24時間制に則るのであれば

It's eight hundred (hours).

It's twenty hundred (hours).

と言うのがふつうです。先述のように「800」時、「2000」時と考えるため数字の言い方が独特の表現になります。

 

o'clock はどちらの表現にも属さない言い方です。

では24時間制で o'clock を使うことは可能なのか、まずは辞書で調べてみますと

 

dictionary.cambridge.org

 

used after a number from one to twelve to say the time when it is exactly that hour:

「1~12までの数字の時間でちょうどその時間の時に使う」

 

このような定義付けがなされていました。12時までの時間帯でしか使わないのが普通と考えることができます。

 

この後も続けて探ってみると面白いページを見つけました。

 

 

english.stackexchange.com


はたして「15時ちょうど」を "fifteen o'clock" と言ってもいいのか、"fifteen hundred (hours)" と言うべきなのかという議題に沿って熱く論じられています。

 

このページで議論されていることをまとめると、

1.午前の時間帯(12までの数字の時間)に関しては24時間制でも o'clock を用いることは可能である
2.午後の時間帯に関しても o'clock で言うことはできるし伝わる
3.ただし不自然だと感じる人もいる

 

ということでした。差し詰め通じはするけどナチュラルな表現じゃないよ、と言うところでしょうか。

 

環状線の駅放送は駅アナウンスと言う公の場で流れるものとしては不適切な文面ともいえるかもしれませんが、伝わらないわけではないようです。伝わるならきちんとアナウンスの役割を果たしているので大丈夫でしょう。

 

まとめ

そもそもとして鉄道の時刻は午前(a.m.)と午後(p.m.)で分けるべきなのか、24時間制にすべきなのかと言うのはまた別の議論になるので割けますが、基本的にアメリ英語圏は「珍しく」12時間制を採用している、と考えて大丈夫です。Wikipedia情報ですが、基本的には24時間制が根付いている国が多いとのことでした。

 

無難に乗り切ろうと思うのであれば「24時間制でも o'clock は使えるのか」の冒頭で示した24時間制のルールに則るのが良いでしょう。

JR神戸・京都・琵琶湖線の放送のように午前と午後で表現を変えるというのも一つの手といえます。

 

 

午後の時間帯でも o'clock は使うことはできるが、あまり好ましい表現ではない、と言う点も要チェックです。

 

それではまた。

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